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産業医 関谷 剛 メッセージ

健診結果、放置は危険!〜秋に始める有所見率の改善〜

「健診結果、放置は危険!〜秋に始める有所見率の改善〜」の文字と白衣姿の産業医・関谷剛先生を配置したアイキャッチ

厳しい暑さが続く8月ですが、人事労務や管理職の皆様におかれましては、秋の健康診断シーズンに向けた準備が本格化する時期かと思います。

労働衛生の歴史を紐解くと、かつて高度経済成長期やそれ以前の時代においては、粉じんによる「じん肺」や有害物質による中毒など、病気や労働災害が発症してからの「事後対応」が中心でした。しかし現代の産業医学は、定期健診による「予防と早期発見」へと大きくシフトしています。

9月は「職場の健康診断実施強化月間」です。会社が実施する健康診断は、単なる法的な義務ではありません。従業員の皆さんが長く健康に働き続けるための「未来への投資」です。今月は、間近に迫った秋の健診シーズンに向けて、会社全体で「受診率」と「有所見率(異常の割合)」を改善するための先回りのアプローチについて解説します。

[Ⅰ]健診結果を放置するリスク

健康診断結果の判定一覧(脂質D判定・肝機能C判定など)

事業所には健康診断の実施義務があり、受診率100%を目指すのは当然ですが、真の健康経営においては「有所見率の改善(異常がある人を減らすこと)」と「二次健診(再検査)の受診率向上」こそが重要です。そして、健康診断において最も問題となるのが、「受診しただけで安心してしまう」ケースです。

■生活習慣病は自覚症状が現れにくい

高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病は、初期段階では自覚症状がほとんどありません。そのため、健診結果で「要精密検査」や「要経過観察」と出ても、「痛くも痒くもないから大丈夫」と放置してしまう従業員が非常に多く見られます。これらを放置すると、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞といった命に関わる重大な疾患(脳心臓疾患)を引き起こします。

健診結果に基づき、適切な医療機関への受診を促すことが、突然の長期休業や離職を防ぐ最大の防御策となります。

[Ⅱ]年齢上昇で急増する有所見率

年代別の定期健康診断有所見率を示す棒グラフ(2023年度)

健康診断に関わる団体の「定期健康診断結果調査」などのデータが示す通り、定期健診において何らかの異常が見つかる割合(有所見率)は、30代から上昇しはじめ、40代で約5割、50代以降では6割を超えて急増します。加齢に伴う生活習慣病のリスク増大は避けられないからこそ、健診結果をきっかけとした「早期の介入」が欠かせません。

異常値を放置して脳心臓疾患などの重大な病気へ進行させないために、事業所が今すぐ取り組むべき2つの具体的アプローチを解説します。

■二次検査の受診を促す

健診結果で「要再検査」や「要精密検査(C・D判定など)」が出ているにもかかわらず、放置されてしまうケースは少なくありません。放置の主な理由は「自覚症状がないこと」と「仕事が忙しくて受診する時間がないこと」です。

人事労務としては、以下の施策を通じて二次検査への後押しする仕組みを作りましょう。

個別の受診勧奨通知の徹底:
全体アナウンスだけでなく、該当者へ個別に受診を促す通知を送付します。
受診しやすい環境(就業上の配慮)の整備:
「業務時間内の受診を認める」「時間休や半休を取得しやすくする」といったアナウンスを事前に全社へ発信し、受診をためらわせない雰囲気を作ります。
産業医・保健師面談の活用:
再検査の必要性が本人に響いていない場合は、産業医や保健師からの「なぜ今受診が必要なのか」という医学的説明を挟むことが強力な動機付けになります。

■特定保健指導の積極活用

40歳以上の従業員を対象とした「特定健診・特定保健指導」は、内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)に着目し、将来の脳心臓疾患や糖尿病の発症を未然に防ぐための国を挙げた予防プログラムです。

厚生労働省の検証データでも、特定保健指導を最後まで修了したグループは、未修了のグループと比較して翌年の腹囲・体重・血圧・血糖などの数値が有意に改善することが実証されています。有所見率を下げるための最も確実な「一次予防・二次予防」の手段です。

[Ⅲ]高年齢労働者の安全衛生対策

職場の高齢化が進む中、2026年4月に厚生労働省から「高年齢者の労働災害防止のための指針(エイジフレンドリーガイドライン)」が公表され、事業主に求められる対策がより明確化されました。この指針においても、健康診断は極めて重要な位置を占めています。

■身体機能の変化でリスク

高年齢労働者は、視力や聴力の低下、平衡感覚(バランス能力)の衰え、筋力の低下などが原因で、「転倒」や「腰痛」といった労働災害に遭うリスクが高まります。これらを防ぐためには、まず本人が客観的な健康状態を把握することが必要です。

■指針に基づく健康管理と職場環境の改善

健康状態の客観的把握:
健診結果に加え、体力チェックなどを通じて、高年齢労働者自身に身体機能の変化に気づいてもらう機会を設けることが推奨されています。
就業上の配慮:
産業医は健診結果や持病(基礎疾患)の状況を確認し、必要に応じて「深夜業の制限」や「負担の少ない業務への転換」などの意見を述べます。
環境改善:
照度(明るさ)の確保、段差の解消など、高年齢者が安全に働ける職場環境(ハード面)の整備と併せて、健診による健康管理(ソフト面)の両輪で安全を守ることが、今の時代の企業に求められています。

■取り組みの評価と継続的改善

年に1回以上、災害発生状況やヒヤリハット件数を分析して、対策を立てたり、見直しを行いましょう。厚生労働省の「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」や「100の取組」事例集を参照し、自社に合う対策を追加していきましょう。

労働災害の種類は事業内容や労働環境によって異なりますので、職場環境を熟知している産業医に相談して、取り組みの評価や改善についての意見を求めることも有効です。

[Ⅳ]健診結果で参考になるサイト

編集後記

高血圧や高血糖は、静かに、確実に皆さんの血管を傷つけています。管理職や人事労務の皆さんは、ぜひ「お節介」だと思わず、異常値が出た社員に対して「受診されましたか?」と声をかけてください。その一言が、彼らの未来の健康寿命と、御社の貴重な人材を守ることにつながります。(産業医 関谷剛)

 

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