1. HOME
  2. ブログ
  3. 産業医 関谷 剛 メッセージ
  4. コロナ禍の骨粗鬆症とその予防

HEALTH TOPICS

トピックス

産業医 関谷 剛 メッセージ

コロナ禍の骨粗鬆症とその予防

統括産業医の関谷です。

コロナ禍になってから医療従事者にビタミンD欠乏が顕著に出ているという研究結果が今年3月国立成育医療研究センターの研究グループによって発表されました※1。カルシウムの吸収を助けるビタミンDは、紫外線を浴びることで体内でもつくられている栄養素です。新型コロナウイルス感染防御対策や、医療従事による長期間の室内生活が紫外線吸収の低下を招いたことがビタミンD欠乏の原因の一つとして考えられています。
ビタミンD欠乏は免疫力を低下させる可能性があり、長く続く屋内生活での運動不足(骨刺激不足)により骨粗鬆症への影響も懸念されます。
これから寒くなっていくと、屋内で過ごす時間が更に長くなる可能性が高くなると思います。骨粗鬆症にならないために、食事による予防方法について、この時期に勉強してみて下さい。
※1国立成育医療研究センターの「ナショナルセンター職員における新型コロナウイルス感染症の実態と要因に関する多施設共同観察研究」グループ

1:骨粗鬆症とは

骨粗鬆症とは、骨強度(骨の強さ)が低下して、骨折しやすい状態になることです。骨強度は、骨量の指標となる「骨密度」と、骨の構造など「骨質」の2つの要因によって決まります。
骨量は成長期に増加し、20歳頃に最大骨量に達します。その後比較的安定に推移した後、加齢に伴い減少します。特に女性においては、閉経に伴い骨量が減少しやすくなります。骨粗鬆症の危険因子には、加齢などの除去できないものと食事や運動などの生活習慣に関わる要因で除去できるものがあります。
生涯を通じての骨粗鬆症の予防は、獲得する最大骨量を大きくすることと、骨量減少を最小限に留めることを基本とし、除去可能な危険因子を早期に取り除くことです。

2:骨粗鬆症と食事

骨粗鬆症が原因で起こる高齢者の骨折は、生活の質(QOL)を大きく損なうため、骨粗鬆症の予防が重要です。厚生労働省の栄養調査によりますと、現在の日本人は、糖質、脂質、たんぱく質、ビタミン・ミネラルのすべての栄養素を十分とっていますが、唯一カルシウムだけは所要量に達していません。ここでは、骨粗鬆症の予防におけるカルシウム摂取の重要性と望ましい食生活のポイントを中心に示します。
<カルシウムと骨>
カルシウムは骨の重要な構成成分です。カルシウムが骨に取り込まれることにより、新しい骨が作られます。一方、古くなった骨は壊され、カルシウムが骨から溶け出します。このような流れが常に繰り返され、骨が新しく置きかわることにより、骨の強さが保たれています。
また、カルシウムは血液中にも存在し、血液中のカルシウムの濃度は一定の範囲内に維持され、生命の維持に必要な多くの生理作用に関与しています。
慢性的にカルシウムの摂取量が不足すると、カルシウムが骨から取り出される量が多くなることにより、骨量が減少し、骨粗鬆症になる可能性が高くなります。骨の健康のためには、十分な量のカルシウムを摂取することが必要です。
<骨粗鬆症の予防のための食生活のポイント>
骨の健康のためにはカルシウムの摂取が重要ですが、それだけではありません。カルシウムの吸収を促進するビタミンD、骨へのカルシウムの取り込みを助けるビタミンKなど、様々な栄養素も必要です。エネルギーと栄養素を過不足なく摂取することが大切です。

◆1日3回、規則正しくバランスの取れた食事を摂りましょう◆
欠食すると、必要なエネルギー及び栄養素が不足する可能性が高くなります。バランスのとれた食事とは 「主食(ごはん・パン・麺)」「副菜(野菜・きのこ・いも・海藻料理)」「主菜(肉・魚・卵・大豆料理)」のそろった食事のことです。
また、毎日の食事での食品はできるだけ偏らないようにすると、それぞれの食品に含まれる様々な栄養素を摂取することができます。特に、カルシウムの摂取量を増やす工夫として、小松菜などの緑黄色野菜、ひじきなどの海藻、豆腐などの大豆製品を取り入れることが挙げられます。
◆適量の牛乳・乳製品をとりましょう◆
牛乳・乳製品は、カルシウムの供給源としてその含有量だけでなく、吸収率においてすぐれた食品です。
厚労省の「食事バランスガイド」によると、日本人の男女はほとんど全ての年代で1日に牛乳1本分のカルシウムを摂取することが奨められています(12~69歳で歩行や立ち仕事、運動量が多い男性のみ1.5本分も推奨)。牛乳0.5本分のカルシウムを他の乳製品に換算すると、6Pチーズ1包装=スライスチーズ1枚=無糖ヨーグルト1パックが目安になります。お好みの食品から毎日摂取するようにしましょう。
◆ビタミンDが含まれる食材◆
サケ、ウナギ、サンマ、メカジキ、イサキ、カレイ、シイタケ、キクラゲ、卵など
◆ビタミンKが含まれる食材、食品◆
納豆、ホウレン草、小松菜、ニラ、ブロッコリー、サニーレタス、キャベツなど

3:骨粗鬆症を防ぐライフスタイル

<控えめにしたい食品・避けたい嗜好品>
スナック菓子、インスタント食品の頻繁な摂取は控えましょう。お酒はカルシウムの吸収の面からは特に影響はありません。食前酒などで食欲が増して栄養を十分にとることができれば、かえってカルシウムをたくさん取り込むことができます。しかし、お酒には利尿作用があるため、いったん吸収されて体内に入ったカルシウムが、必要な分まで排泄されてしまうこともあります。
タバコは胃腸の働きを抑え、食欲をなくし、カルシウムの吸収を妨げます。女性では骨から血液中へのカルシウムの流出を防ぐ女性ホルモンの分泌を妨げます。そのため喫煙の習慣のある女性は、骨粗鬆症になりやすい危険因子を1つ持っていることになります。
<日光浴でビタミンD吸収率を上げるポイント>
日光浴は夏なら木陰で30分、冬なら手や顔に1時間程度、日に当たるだけでじゅうぶんです。ビタミンDはカルシウムの吸収をよくするために、骨をつくるうえで欠かせない成分ですが、食事からだけではなく、日光浴により皮膚でもつくられます。しかし、ガラスは紫外線をあまり通さないため、窓越しの日光浴ではあまり効果は望めません。一日中家の中にこもりきりの人は、食事から十分なビタミンDを摂取するようにしましょう。
<骨粗鬆症はロコモティブシンドロームの入口>
ロコモティブシンドローム(ロコモ:運動器症候群)は、加齢に伴う筋力の低下や関節や脊椎の病気、骨粗鬆症などにより運動器の機能が衰えて、要介護や寝たきりになってしまったり、そのリスクの高い状態を表す言葉です。
現在ロコモの人口は予備軍も含めて4700万人と言われています。ロコモに特に関係が深い疾患は、高齢者に多い膝、腰、骨の病気、つまり変形性膝関節症、骨粗鬆症と考えられています。それぞれの病気の推計人口は、変形性膝関節症は2530万人、骨粗鬆症は1300万人とされ、メタボの人口すなわち高血圧(3970万人)に匹敵する数になっています。
便利な移動手段の多い現代社会では、日常生活に支障はないと思っていても、ロコモになっていたり、すでに進行したりしている場合が多くあることが分かっています。ロコモを進行させないためにも骨粗鬆症にならないように、エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使うなど、日常生活のちょっとした場面で身体を動かすように心がけて下さい。
<骨粗鬆症を持つ方の新型コロナウイルスワクチン接種時の注意点>
新型コロナウィルスワクチン接種(以下ワクチン接種)と骨粗鬆症治療にはいくつか注意しないといけない点があります。ワクチン接種時の問題としては、接種当日の副作用や接種後の数日間に起こりうる副反応などが骨粗鬆症治療薬の副作用に類似しているため、特別な事情がない限り両者を同日に実施することは避けた方が無難であると考えられます。

4:骨粗鬆症で参考になるサイト

骨粗鬆症について詳しい公益財団法人骨粗鬆症財団サイト
公益財団法人骨粗鬆症財団のホームページでは、骨粗鬆症の予防法である食事(栄養)や運動の他に、検査と治療についても詳しく紹介しています。
骨粗鬆症を取り上げている厚生労働省のe-ヘルスネット
厚生労働省のe-ヘルスネットでは「骨粗鬆症の予防のための食生活」や「骨粗鬆症予防のための運動」というテーマで専門研究者が分かり易く文章を掲載しています。

あとがき

骨粗鬆症で大切なのは、日常生活の中で骨量を増やす努力をすることで、何年もかかって減ってきた骨ですから、いっぺんに増やすことは困難です。食事と運動を行いながら、文字通りコツコツとした努力を積み重ねて心がけて下さい。
産業医 関谷剛

関連記事