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産業医 関谷 剛 メッセージ

紫外線の健康障害について

統括産業医の関谷です。

6月に入ると、太陽の日差しが強くなり、海や山に出かけると簡単に日焼けするような季節になります。多くの研究により、日焼けの原因である紫外線を浴びすぎると人の健康に影響があることが分かってきました。また、紫外線と同じく赤外線による健康障害が起こることがあり、光はさまざまな障害を引き起こします。放射線や電波を含めた電磁波のうち、波長が約1nm(ナノメートル)から約1mm(ミリメートル[※1mm=1,000,000nm])までのものが光(太陽光)です。強度が強く、有害性が問題となる場合には、特に有害光線とも呼ばれます。
太陽光に含まれる様々な波長の電磁波は地上に降り注ぎますが、自然環境以外にも電化製品や照明器具、暖房器具、調理器具などでも電磁波が使用されており、強い光を直視しないように、事業所や普段の生活の中で対策を講じる必要があります。

1:紫外線と赤外線の違い

光は波長によって大きく3つに分けられます。眼に見える通常の光(虹の七色等)である可視光と、それより短波長の紫外線、長波長の赤外線です。紫外線と赤外線は、眼には見えませんが、可視光と似たような性質を持ちます。紫外線のうち、真空紫外と呼ばれる波長約200nm以下の波長範囲は、酸素分子に強く吸収されるので空気中を透過できません。その為、通常の状況下では人に対して障害を引き起こすことはありません。
一方、200nm~380nmまでの紫外線は眼に対して角膜炎や結膜炎(電気性眼炎)、白内障などの障害をもたらします。皮膚炎(日焼け)もこの紫外線領域のうちに入ります。

【1】紫外線は3種類ある
紫外線は、波長の短い方から順に、C領域紫外線(UV-C)、B領域紫外線(UV-B)、A領域紫外線(UV-A)の3つに分類されます。
一般に、光は波長が短いほど強いエネルギーを持ちますが、物質に当たると屈折する性質があります。反対に、波長が長くなるほど屈折せずに直進しやすい性質があります。このため、紫外線は、波長により異なった健康影響を引き起こします。
UV-A
UV-Bに比べUV-Aでは急激な変化は起こりません。ですがシミやシワの発生にかかわっていることが分かってきています。UV-Aは波長が長く肌の奥まで届いてしまうため、私達は気付かないうちに肌に様々な影響を受けているのです。
またUV-Aはオゾン層を通過しやすく、そのほとんどが地上に到達していて、窓ガラスも通り抜けてしまいます。ですが、弱い紫外線でも大量に長時間浴び続けると、ダメージを受けることになります。
UV-B
直射日光にあたり肌が真っ赤に焼けてしまったり、ひどいと水ぶくれを起こしたりするのは、このUV-Bが原因です。
ほとんどはオゾン(大気層)や雲に吸収され、全紫外線量の一部(10%程度)が地表に到達するだけです。ただ届く量は少量でも、非常にエネルギーが強いため眼や皮膚に影響を及ぼし、皮膚がんの原因となります。直射日光に長時間当たらないなど、日々の暮らしの中で注意していけば、ある程度防ぐことは可能です。
UV-C
オゾン(大気層)で吸収されるため、私達が活動している地表に届きません。

【2】赤外線
赤外線は熱線(ねっせん)ともいい、温度をもつすべての物体から放射されていて、からだを暖める作用があります。
赤外線は、可視光線(380~780nm)より長い780nm〜1mmの波長を有する電磁波で、熱線とも呼ばれています。自然界では、太陽放射線が50%以上を占めますが、地上に存在する発熱体からも放射されています。太陽放射線の50%近くは、成層圏で水蒸気や二酸化炭素などに吸収されます。地球そのものも発熱体であり、3000~5000nmの赤外線を放射しています。
赤外線は、その波長により大きく近赤外線(750~3000nm)と遠赤外線(3000~106nm)に分けられます。赤外線は、生体への影響として、主に眼障害や皮膚障害、熱中症を引き起こします。

2:紫外線による健康障害とは

紫外線は私たちの皮膚や目、免疫機能に影響を与えるといわれています。紫外線が関係していると考えられる病気は、急性期の病状と慢性期の症状で分けられます。

◆急性期の症状◆
①日焼け
紫外線を浴びて数時間後に見られる赤い日焼けは「サンバーン」と呼ばれます。紫外線を浴びすぎると、水泡となって皮がむけます。これは紫外線Bによります。
また、肌を褐色にする「サンタン」は、紫外線Aが引き起こします。赤い日焼けが消えた後、数日後に出現し、数週間から数ヶ月続きます。これは皮膚が紫外線から身体を守るために皮膚の色素細胞が刺激されて、メラニン色素がたくさん作られたためのものです。
②雪目
強い紫外線を浴びると、目が充血して紫外線角膜炎などの急性障害を引き起こします。
③免疫機能低下
紫外線は免疫力を低下させ、感染症などの病気にもかかりやすくなるといわれています。皮膚は外からの侵入物に抵抗するという重要な役割をもっていますが、皮膚が紫外線を浴びたことで免疫力が低下すると感染症にかかりやすい状況になります。口唇や口角にできるヘルペスは免疫機能が低下した結果と考えられています。

◆慢性期の症状◆
[A]皮膚に関する障害
紫外線は肌をくすませ、皮膚の弾力を衰えさせます。その結果、老化現象としてみられるシワと異なり、日光があたるところは深い溝が目立つようになります。また女性の天敵であるシミは、日焼けにより色素細胞がつくるメラニンの量が増加すると目立つようになります。
前がん状態である日光角化症では、淡い色や紅色のシミのほくろようなものが目立ち、悪性黒子(ほくろ)では比較的大きなシミが少しずつ大きくなります。さらにこれらの紫外線が関係した皮膚障害は前がん状態から、次にあげる悪性腫瘍へと進んでいく危険があります。

①悪性黒色腫(メラノーマ)
色素細胞のがんで最も悪性度が高いと考えられています。主に日焼けをしやすい白色人種に発生しやすいといわれてはいますが、私たち日本人にも比較的見られる皮膚がんであり、皮膚がんによって亡くなる人の約80%がこのメラノーマによります。
②基底細胞がん
主にお年寄りに発症しやすく、皮膚の下にある筋肉や骨にまで深く侵入すると恐れられています。ほとんど転移はせず、亡くなる人も少ない病気です。
③有棘(ゆうきょく)細胞がん
悪性度は悪性黒色腫と基底細胞がんの中間で、ほかの臓器やリンパ節へ転移することがあり、しこりや潰瘍ができる皮膚がんです。

[B]目に対する障害
紫外線による日焼けを気にしている人は多いものの、目への影響を気にしている人は意外と少ないのではないでしょうか? 日傘をさしていても路面での反射などによって、目はあらゆる角度から紫外線を浴びている恐れがあります。長期間紫外線にさらされる白内障や翼状片(結膜、いわゆる白目の組織が異常増殖して黒目にかかってくる病気)が引き起こされると考えられています。
①白内障
白内障は水晶体のたんぱく質が変性し、徐々に濁ってきて視力が落ちてくる病気です。白内障は加齢によるものが大部分を占めていますが、水晶体の濁りの原因の一部に紫外線が影響していると考えられています。眼球の水晶体が濁ると失明に至ることがあり、白内障による失明者のうち、約2%に紫外線が関与していると考えられています。
②翼状片(よくじょうへん)
翼状片は白目と黒目の境界が紫外線で傷つき、その修復の過程で発生すると考えられています。その結果、白目の組織が異常に増殖して黒目にかかり、視力障害の原因となることがあります。耳側から差し込む紫外線が鼻側に集まりやすいため、目の鼻側に起こりやすい特徴があります。進行すると翼状片を切除しますが、手術しても再発することがあります。

【3】太陽光意外の紫外線
人工的に作られた光源から受ける紫外線が健康障害を起こすケースがあります。これらの人工光源は太陽光と違い、UV-Cを含んでいます。また発せられる紫外線量は溶接法や溶接電流等の違いにより異なりますが、太陽光の紫外線量より低い場合から数十倍になることもあります。

◆人工光源の種類◆
*アーク溶接
*溶断作業
*紫外線殺菌灯下での作業
*遺伝子検査作業
*日焼けサロン

◆溶接作業中の健康障害◆
溶接の際に発生する光は、2種類に分けられます。加熱のプロセスに伴って発生する光、すなわちアークや炎などの光と、溶融した金属が発生する光です。
アーク溶接やプラズマ溶断の場合、そのアークは、一般に強い光、特に紫外線と可視光を放射します。実際、作業現場ではこの紫外線によって多くの角膜炎・結膜炎(紫外眼炎)・皮膚炎が発生しています。また、可視光による網膜障害の事例も報告されています。
紫外眼炎は、雪目と同じものです。溶接が原因の場合、電気性眼炎とも呼ばれます。症状は、異物感(目の中がゴロゴロする)、眼痛(眼が痛い)、流涙(涙が出て止まらない)、羞明(まぶしい)などです。ただし、紫外線への曝露最中および直後は、異状が見られず、こうした症状は通常、曝露から数時間後に現れ一日程度で自然に消えます。
(社)日本溶接協会安全衛生委員会が行ったアンケート調査によれば、アーク溶接作業場で働く作業者の86%が、過去に紫外眼炎の経験を持ち、さらに45%は、月1回以上の頻度でこれを経験しているデータが出ています。

【4】紫外線からの予防法
紫外線対策には、紫外線の量が多い時期や時間帯、その性質を知ることが大切です。紫外線量は7月が最も多く、1月の約5倍といわれています。注意すべきは、夏といってもいちばん暑い8月がもっとも紫外線量が多いとは限らないということです。午前10時〜午後2時までの紫外線量がもっとも多く、とくに12時前後の紫外線量が最も多くなります。
紫外線量が気象条件で変わることは容易に想像できますが、くもりや雨の日でも紫外線は地表に届いており、くもりの日でも20〜30%の紫外線が届くといわれています。さ らに、アスファルト・コンクリートからの照り返しによる紫外線反射が20%、水面20%、芝生や土でも10%あるといわれていますから注意が必要です。

[1]外出の時間帯
紫外線の強い正午前後(午前10時〜午後2時頃)は、外出を控えましょう。
[2]つばの広い帽子
つばの広い帽子は紫外線を効果的にカットしてくれます
[3]日傘
直射日光を効果的にさえぎってくれます。色の濃い黒地のものを選んで、低めの位置で使用しましょう。
[4]長袖・長ズボン
腕や肩、首まわりを守るためには長袖やえりのついた服を着るのがよいでしょう。
[5]紫外線カットの「サングラス」と「保護めがね」
紫外線カット加工をしているサングラスは、ほとんどの紫外線をカットすることができます。しかしながら、色の濃いサングラスは瞳孔が通常より大きく開いてしまうため、かえって多くの紫外線が侵入するため注意が必要です。
「保護めがね」には大きく分けて飛来物等を対象にした「保護めがね」、有害光線を遮光する「遮光めがね」、レーザ光を遮光する「レーザ用保護めがね」があります。
「保護めがね」といってもたくさんの種類があり、作業環境や用途に応じて正しい選択をすることが重要になります。溶接の光から目や皮膚を守るには、溶接遮光面(ようせつしゃこうめん)を必ず使うようにしましょう。
[6」日焼け止め
衣服で覆うことができない場所には、用途にあわせて日焼け止めクリームを使い分けましょう。
[7」ビタミンC
ビタミンCを多く摂ると白内障が減少するという報告もあります。

3:紫外線の健康障害で参考になるサイト

気象庁の「全国の紫外線情報(紫外線予報)」サイト
日本では気象庁が2005年度から防災情報の一つとして、紫外線予報を開始し、気象庁ホームページで情報提供されています。小学校などでは、紫外線の強い日には戸外での学級活動を考慮する、などの措置がとられており、屋外での作業を行う事業所では予報情報を参考にするようにして下さい。

環境省の紫外線環境保護マニュアル2020
環境省では紫外線による健康障害への注意を促し、紫外線への正しい知識を持ってもらうためにパンフレットを作っていますが、最新の科学的知見を踏まえて2020年3月に改訂版を公開し、環境省のサイトからダウンロードできるようにしています。

あとがき

最近の世界保健機関(WHO)の報告では、サンベッド(日焼けサロン)の利用による悪性黒色腫が増加していることを指摘しており、18歳以下の使用を禁止するよう勧告しています。国際がん研究機関(IARC)ではサンベッドをタバコと同等の発がん物質と位置づけています。ご利用はほどほどに。

統括産業医 関谷剛

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