日本の産休・育休制度は世界一?
ご家庭でお子さんを産み育てることは、幸福なことでもありますが、身体的・経済的な負担も大きいのではないかと思います。
「妊娠中に電車で席を譲ってもらったことがない」という話を友人から聞いたこともありました。
いわゆる「高校授業料無償化」制度が始まったものの、賃金は上がっていないのに大学の学費は上がり続けています。
しかしながら、子育てのスタートラインである産休・育休については、日本の制度は世界的に見ても非常に手厚いことをご存知でしたか?お子さんが保育所に入れなければ最長で2歳まで育休を取ることができて、さらに給付金という公的な経済支援も受けられることは、制度の内容としては充実しているといえます(残念なことに、産休・育休制度の充実と出生率の上昇は比例するわけではないようです…)。
内容が充実しているぶん、手続きは複雑になってしまっています。
今回は産休・育休制度の基礎知識を4つ紹介しますので、労務管理にお役立てください。
①産休・育休の期間
まずは、産休と育休の期間について確認しましょう。
産前休業:出産予定日の42日前〜出産日(双子以上なら98日前〜出産日)
産後休業:出産日翌日〜56日後
育児休業:出産日翌日から57日後〜お子さんが1歳になる誕生日の前日
(男性の場合は出産予定日〜お子さんが1歳になる誕生日の前日)
*保育所などに入れなければ最長2歳まで延長可能。
育休は産休よりも長期間にわたることが多いため、申出日に一定のルールがあります。原則として、従業員は会社に対して育休取得開始日の1ヶ月前までに申し出なければなりません。以下に具体例を見てみましょう。
【2022年4月1日出産予定日のA社Bさんの算出方法】
産前休業:2022年2月19日〜2022年4月1日
(双子以上なら2021年12月25日〜2022年4月1日まで)
産後休業:2022年4月2日〜5月27日
育児休業:2022年5月28日〜2023年3月31日
*育児休業の申し出は2022年4月28日まで
*産休・育休の期間をカウントする際には、以下の厚生労働省のサイトが便利です。
母性健康管理サイト「産休・育休はいつから?産前・産後休業、育児休業の自動計算」
!CheckPoint!
◆産休と育休の違い
・産休は誰でも取得できるのに対し、育休は取得できない方もいる
↓
産休の趣旨は「母体保護」である一方、育休の趣旨は「雇用維持」であり、会社にかかる人員確保等の負担が異なってくるから
◆育休が取得できない方
(1)日雇いで働く方
(2)有期契約で働く方であって、勤続年数1年未満の方
(3)有期契約で働く方であって、お子さんが1歳半になるまでに契約が終了することが決まっている方
- 有期契約の方は無期契約の方に比べて育休取得のハードルが高いのですが、2022年4月1日より、そのハードルが多少低くなります。(2)のルールが廃止されますので、勤続年数1年未満の方であっても育休を取得できるようになります。
- (1)か(3)に該当する方は引き続き、原則として育休を取得できません。育休が取得できず仕事を辞めなければならなくなった場合、育休と同じような制度はないのが実態です。もし経済的に困窮した場合には、保険料や税金の免除、自治体による支援などほかの制度に頼ることになると思われます。
- 厚生労働省では福祉や介護など生活全般に関わる制度を紹介するページを設けています。詳しくは、このページで紹介されている市区町村の相談窓口や区役所等にお問い合わせください。
厚生労働省「生活困窮者自立支援制度 制度の紹介」
②社会保険料が免除される
産休・育休中の経済的負担を軽減する制度の一つ目は、社会保険料の免除です。ただし、自動的に免除されるのではなく、手続きをして年金機構や健康保険組合に知らせる必要があります。
手続きの大まかな流れは、以下の通りです。
【社会保険料免除の手続きの流れ】
・産前産後休業取得時に申請
・産前産後休業の期間を変更したときに申請(予定日と出産日がずれたときなど)
・育児休業取得時に申請
・育児休業を延長したときに申請(保育所に入れなかったときなど)
・育児休業を終了したときに申請(取得時に記入した終了予定日を変更したときなど)
③手当金・給付金がもらえる
産休・育休中の経済的負担を軽減する制度の二つ目は、手当金・給付金の支給です。
産休に対しては健康保険から「出産手当金」、出産に対しては健康保険から「出産育児一時金」、育休に対しては雇用保険から「育児休業給付」が支給されます。
これらの手当金・給付金の額は、以下の通りです。
【手当金・給付金の算出方法】
出産手当(1日あたり)
「支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した金額」÷30日×2/3
※おおよそ月給の3分の2程度
出産育児一時金の額
一児につき42万円
育休の給付額(支給単位期間ごとに算出)
休業開始時賃金日額×支給日数×67%
※おおよそ月給の3分の2程度
!CheckPoint!
◆②③の手続きは家計維持ため迅速な対応が必要◆
そのため「どのように手続きを管理するとよいか」とご相談を受けた場合、
*従業員の「出産予定日」「出産日」「お子さんの保育所入所日」「職場復帰日」など、出産・育児にまつわるイベントの日付をしっかりと把握しましょう
*従業員数が多く、産休・育休取得者も多い企業様では、労務管理に使えるクラウドサービスなどを導入することも検討されるとよいでしょう。イベントの日付を管理しておけば、手続漏れがないかどうかなどをポップアップで知らせてくれるような機能もあって便利です
などと助言する場合が多いです。
④育休復帰時に使える制度
育休から復帰した際にも経済的負担を多少軽減できる制度があります。
その制度は、社会保険料額を下げるにあたって、原則のルールよりも要件を緩和させる内容になっています(「育児休業等終了時報酬月額変更届」といいます)。
!CheckPoint!
◆育休復帰後の時短勤務期に手取り額が激減しないよう社会保険料を減額できる◆
通常、お給料から控除される社会保険料額は、基本給や役職手当などの固定給が変動したときに変更されます。
この固定給の変動幅が原則のルールよりも小さい場合でも、育休復帰時に限っては社会保険料額を変更できるのです。
詳細は「育児休業等終了時報酬月額変更届の提出(日本年金機構)」をご参照ください。
以上、産休・育休の期間と3つの制度について紹介しました。
産休・育休の制度は、社会の変化にともなって法改正が繰り返されています。
①で紹介した育休取得要件の緩和以外にも、2022年4月以降に変わる制度があります。
これらの変更点については、また別の機会に紹介させていただきたいと思います。