8月から「業務改善助成金」の要件が緩和・拡充されています
みなさんこんにちは。特定社会保険労務士がお届けする『労務のハナシ』第2回です。
先日、弊所で小規模事業者持続化補助金を申請しました。採択されれば、広報費など販路開拓等に使用できる補助金です。書類の作成はなかなか骨が折れる作業でした。
「補助金」の多くは採択件数や予算があらかじめ決まっていて、審査する方々がより良い申請内容かどうかを審査して採択を決定するものです。
一方「助成金」は、申請要件を満たせば支給される可能性が高いものです。例えば、厚生労働省の「業務改善助成金」という助成金があります。
業務改善助成金とは、設備投資等によって業務改善を行い、事業場における最も低い賃金を引き上げた中小企業事業者が受給できるものです。
POINT「業務改善助成金」
- 補助金とは異なり「助成金」は、申請要件を満たせば支給される可能性が高い
- 設備投資等による業務改善と賃金引き上げをした中小事業者が「業務改善助成金」を受給できる
- 参考:厚生労働省「業務改善助成金」
申請を検討される前に、まずは貴社がこの助成金の対象に当てはまるかどうか、以下の3点をご確認ください。
①企業全体・・・下表で定めるいずれかに該当する中小企業事業者である
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する企業全体の労働者数 |
---|---|---|
一般産業(下記以外) | 3億円以下の法人 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下の法人 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下の法人 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下の法人 | 50人以下 |
②申請を検討する事業場・・・労働者が100人以下
③事業場における最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内
そして次は、事業場において各助成金の目的に沿った計画を立てます。
最初に計画を立てて書面を作成するのは「助成金あるある」です。
業務改善助成金の場合は、以下2つの計画を立てます。
①賃金引き上げ計画
②業務改善計画
①賃金引き上げ計画
まず、事業場において入社後3ヶ月を経過した労働者のうち、事業場内で最も低い時間当たりの賃金額(「事業場内最低賃金」)を確認します。
そして、その事業場内最低賃金を、下表のコース区分毎に定められた引き上げ額以上に引き上げる計画を立てて、就業規則等に記載して労働者に周知します。助成金の上限額は、「何円引き上げるか」「何人引き上げるか」によって変わります。
コース区分 | 引き上げ額 | 引き上げる労働者数 | 助成上限額 |
---|---|---|---|
20円コース | 20円以上 | 1人 | 20万円 |
2〜3人 | 30万円 | ||
4〜6人 | 50万円 | ||
7人以上 | 70万円 | ||
30円コース | 30円以上 | 1人 | 30万円 |
2〜3人 | 50万円 | ||
4〜6人 | 70万円 | ||
7人以上 | 100万円 | ||
45円コース | 45円以上 | 1人 | 45万円 |
2〜3人 | 70万円 | ||
4〜6人 | 100万円 | ||
7人以上 | 150万円 | ||
60円コース | 60円以上 | 1人 | 60万円 |
2〜3人 | 90万円 | ||
4〜6人 | 150万円 | ||
7人以上 | 230万円 | ||
90円コース | 90円以上 | 1人 | 90万円 |
2〜3人 | 150万円 | ||
4〜6人 | 270万円 | ||
7人以上 | 450万円 |
たとえば、企業全体で100人以下のサービス業を営む東京都の企業で、ある事業場Aの事業場内最低賃金が1,050円だったとします。10月1日以降適用される地域別最低賃金額1,041円との差額は9円で30円以内なので、助成金の対象に当てはまっています。
20円コースで申請する場合には、事業場Aにおける全ての労働者の時間当たり賃金を1,070円以上に引き上げる必要があります。
助成上限額の判断には、コースに応じた「引き上げ幅」と「引き上げる労働者数」のどちらも影響します。
引き上げる労働者数にカウントできるかどうかは、以下の事例を参考にしてください。
- 時間当たり賃金が1,050円の労働者1名の賃金を1,070円に引き上げる・・・◯
- 時間当たり賃金が1,060円の労働者1名の賃金を1,070円に引き上げる・・・×(引き上げ幅が20円に満たないため)
- 時間当たり賃金が1,060円の労働者1名の賃金を1,080円に引き上げる・・・◯
- 時間当たり賃金が1,075円の労働者1名の賃金を1,095円に引き上げる・・・× (引き上げ前の賃金がすでに1,070円より高いため)
この事例の場合、2名が◯で引き上げる労働者数にカウントできるため、助成上限額は30万円となります。
なお、事業場内最低賃金の計算方法は、地域別最低賃金の計算方法(※)と同じ考え方です。
※地域別最低賃金の計算方法
参考:厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」
POINT「賃金引き上げ計画」
・事業場内最低賃金をコース区分に応じて引き上げる計画を立てる
・「引き上げ幅」と「引き上げる労働者数」を確認して助成上限額を判断する
・事業場内最低賃金の計算方法は地域別最低賃の計算方法と同じ
②業務改善計画
賃金引き上げ計画を立てて助成上限額を確認したら、次は業務改善計画です。
助成率は、引き上げ前の事業場内最低賃金900円以上の場合は原則3/4、900円未満の場合は原則4/5です。
上記の事例の場合、引き上げ前の事業場内最低賃金900円以上なので助成率は3/4となり、30万円×(4/3)=40万円を目安に計画を立てるとよいでしょう(ただし上限額を目指すと当然に持ち出しも増えるのでご注意ください)。
業務改善をするための設備投資等に使える経費は、以下の12個です。
- 謝金
- 旅費
- 借損料
- 会議費
- 雑役務費
- 印刷製本費
- 原材料費
- 機械装置等購入費
- 造作費
- 人材育成・教育訓練費
- 経営コンサルティング経費
- 委託費
設備投資等による業務改善の内容は、たとえば、POSレジシステム導入による在庫管理の短縮や、リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮、顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化、業務フロー見直しによる顧客回転率の向上などが挙げられます。
POINT「業務改善計画」
- 助成上限額に応じて業務を改善する計画を立てる
- 助成率は引き上げ前の事業場内最低賃金900円以上なら原則3/4、900円未満の場合は原則4/5
- 12種類の経費を設備投資等に使うことができる
8月1日以降に緩和・拡充されている要件は主に2つです。
①新たな助成上限額が作られた
②自動車や、パソコン等(新規導入のみ)が経費の対象となった
①新たな助成上限額が作られた
事業場内最低賃金900円未満の事業場、あるいはコロナの影響で生産量や売上高等の事業活動を示す指標の最近3ヶ月間の平均値が、前年か前々年同期に比べ、30%以上減少している事業者であって、引き上げる労働者数が10人以上なら、各コース毎に助成上限額が以下の通りとなります。
- 20円コース・・・80万円
- 30円コース・・・120万円
- 45円コース・・・180万円
- 60円コース・・・300万円
- 90円コース・・・600万円
②自動車や、パソコン等(新規導入のみ)が経費の対象となった
生産量や売上高等が30%以上減少していて、引き上げ額を30円以上とする場合には、自動車やパソコン等も経費の対象とすることができます。
たとえば、乗車定員11人以上の自動車及び貨物自動車等やパソコン、スマホ、タブレット等の端末および周辺機器が挙げられます。
ただし、パソコン等は新規導入(あるいは増設)のみで、買い換えや修理の費用は対象になりません。
POINT「8月以降の要件緩和・拡充」
- 事業場内最低賃金900円未満の事業場か生産量等30%減の事業者で、引き上げる労働者が10人以上なら、より高い助成上限額が適用される
- 生産量等30%減の事業者で、引き上げ額を30円以上とするなら自動車や新規導入するパソコン等も経費の対象となる
- 参考:厚生労働省「『業務改善助成金』が使いやすくなります」
申請期限は2022年1月31日で、交付が決定されたあと同年3月31日までに賃金引き上げ計画と業務改善計画(経費の支払い含む)を完了させる必要があります。
申請を検討される方はお早めにどうぞ!