ハラスメント最新事情~快適な職場環境を守る~

統括産業医の関谷です。
日本でセクシャルハラスメント(セクハラ)が法律の文面に盛り込まれてから30年、パワーハラスメント(パワハラ)の防止措置をすべての事業主に義務化されたのは2022年4月からです。しかし、有名企業の経営者や行政の長が部下へのハラスメントで辞職したというニュースが、今も頻繁に報道されていることは、皆様もご存じのとおりです。
現在、法律で防止措置が義務化されているハラスメントはパワハラやセクハラだけでなく、妊娠・出産・育児休業等に関するマタニティハラスメント(マタハラ)や、フリーランスへの業務委託におけるハラスメント(フリハラ)もあります。さらに今年10月1日からは、全ての事業主に対して、顧客等からの著しい迷惑行為であるカスタマーハラスメント(カスハラ)と、就職活動やインターンシップ中の学生等に対するハラスメント(就活セクハラ)についても防止措置が義務化されます。
事業所にとってハラスメントは「マナー」から「ルール」へと替わり、業務遂行の上で守らなければならない法律の一つとなっています。ハラスメントへの対応を誤ると、経営上のリスクとなり得ます。報道事例でも、対応のあり方が企業の信頼や事業継続に影響したケースがあります。
多様化する現代社会では、ハラスメントの対象や種類は、今後も増えていくでしょう。事業所として被害者にも加害者にもならないようなハラスメント対策をしっかりと実施するために、最新のハラスメント事情について学んでください。
〚1〛最も多い被害相談
■13年連続で相談案件トップ■
ハラスメントに関して、「昔に比べて騒ぎすぎだ」という声も耳にします。しかし、厚生労働省の「総合労働相談」において、「いじめ・嫌がらせ(ハラスメント)」に関する相談件数は、他の項目(解雇や賃金引き下げ等)を抜き、13年連続でトップとなっています。
私が産業医として勤務する事業所でも、精神的不調の相談ということで、従業員の方から詳しくお話を伺うと、発端は社内の人間関係ですが、実際にはハラスメントだったケースが大変多いです。社内の同僚や上司には言い出せなくて、産業医面談で初めて本音を打ち明けてくれるのです。
統計データでも示されたように、働く人にとっての悩みの原因の多くはハラスメントであり、現在進行形で深刻な社会問題となっています。
〚2〛多様化するハラスメント
ハラスメントの種類は年々増えており、メディアでは「○○ハラ」と省略して表示されることが多くなっています。昔は上司からハラスメントを受けるケースを対象として考えられてきましたが、現在では同僚や部下に加え、取引先や顧客もハラスメントの対象者として捉えるようになり、まさにハラスメントのパターンは多様化しています。
■パワハラの定義■
様々なハラスメントがある中で、典型例とされるパワハラについて、法的に該当すると判断される要件を知っておく必要があるでしょう。
職場において
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの
であり、①から③までの3つの要素をすべて満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で⾏われる適正な業務指⽰や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
■新しいハラスメントの種類■
法律ではまだ防止措置の対象にはなっていないものの、新しいハラスメントとして認知されつつある、職場で発生している事例を紹介します。
| スメルハラスメント(スメハラ) | ニオイで周囲の人に不快感を与える行為 |
| 音ハラスメント(音ハラ) | 配慮なく、過剰な音で周囲を不快にさせる行為 |
| アルコールハラスメント(アルハラ) | 弱い立場の人にアルコールを飲むように強要する行為 |
| エアーハラスメント(エアハラ) | 社内などでエアコンの設定温度によって他人の体調を崩してしまう行為 |
| お菓子ハラスメント(オカハラ) | 職場にいる特定の人にだけお菓子を分けなかったり、旅行や出張に行く人にお土産を強要する行為 |
| テクノロジーハラスメント(テクハラ) | パソコンやスマホなどのテクノロジーに詳しくない人に対する嫌がらせ |
| ハラスメントハラスメント(ハラハラ) | 上司などに対して何かにつけて『これはハラスメントだ』と主張する行為 |
| エンジョイハラスメント(エンハラ) | 仕事は楽しいものだと思うことを強制する行為 |
〚3〛職場での対処法
ハラスメントの種類や対象は、今後も増えていく可能性があります。現在はグレーゾーンであっても、将来は法律上のハラスメントとして認められる可能性があるものについて、事業所としては今から対策を講じておくべきでしょう。
■方針の明確化と周知■
法律の定義に従いながら、各事業所の事業内容や働き方に応じて、どこからがハラスメントにあたるかについて、明確なルールを設けることをお勧めします。例えば上述の「音ハラ」「エアハラ」などは、社内で数値基準を設けるだけで、問題を未然に防げるようになります。
事業所では職種や事業規模によって、立場の強い責任者の配置方法や、経営者からの指示命令系統など、就業環境は異なってくるでしょう。どこまでは「就業上の適切な業務指示」で、どこからハラスメントになるかを事業所内で明確化しましょう。
方針に沿った研修を行う
明確化したルールを、全ての従業員に伝え、責任者に対して社内研修を実施し、厳正な対処方針などについても周知しましょう。
■適切な社内体制の整備■
従業員や取引先などからハラスメントに関する相談や苦情が入ることを念頭に、適切に対応するために必要な体制を整備しておきましょう。
パワハラやセクハラで相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者及び行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずるのは、全ての事業所で義務となっています。
新しいハラスメントに関しても、被害状況によってはパワハラやセクハラに該当する案件もあります。相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取り扱いを行ってはならないので、事業所内で専門の相談窓口を設けて、担当者の氏名も明らかにしておくことをお勧めします。
ハラスメントは、個人だけの問題にとどまらず、職場全体で取り組むべき課題です。取引先や顧客などからセクシュアルハラスメントを受けた場合も、自分の勤める会社に相談してください。
〚4〛ハラスメント最新事情で参考になるサイト
厚生労働省 政府広報 NOパワハラ なくそう、職場のパワーハラスメント
内閣府大臣官房政府広報室が開設しているサイト「政府広報オンライン」では、政府の施策や知りたい情報を届けることを目的に、政府の取組の中から、生活に身近な話題や情報を記事や動画で分かりやすく伝えています。職場のパワハラに関しては、労働の項目の一つとしてページを設けており、パワハラの定義や類型、対応策について書かれていて、主な相談窓口に関してもリンクが貼られています。
厚生労働省 NOハラスメント「あかるい職場応援団」 ハラスメントを知る
NOハラスメント「あかるい職場応援団」は、社会的な問題として顕在化してきている職場のパワハラについて、問題の予防・解決に向け、問題に関する様々な情報発信を行なっていくため、厚生労働省委託事業として、2012年10月に開設されました。あかるい職場応援団運営事務局は、一般からの意見・感想や「あかるい職場応援団」運営委員会での議論を基に、既存コンテンツの精査、新規コンテンツの追加などをおこなっています。
一般社団法人日本ハラスメント協会 ハラスメントの種類2026年版
YouTubeチャンネル「関谷剛の産業医こぼれ話」 2026年5月『ハラスメント』
医師・産業医の関谷剛先生が、この通信と同じテーマについて解説した動画を毎月公開しております。文章だけでは伝わりにくい、病気予防のポイントや産業医としての経験談などを自らの言葉で説明しています。YouTubeチャンネルで御覧頂けますから、事業所でもご家庭でもぜひ御覧下さい。
あとがき
管理者や相談担当者にはハラスメントの基本的事項や相談対応の留意点について専門スキルの研修等を受け、資質の向上を図ることが求められます。研修の講師として、社内の事業を理解している産業医に依頼するのは選択肢の一つです。(産業医 関谷剛)



















