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産業医 関谷 剛 メッセージ

転倒災害について

統括産業医の関谷です。

職場・事業所で、最も発生件数が多い労働災害が「転倒」と聞いたら、驚かれる方もいるでしょう。転倒しただけで労働災害につながると言うと、大げさに思われるかもしれませんが、仕事中に転倒したことで 4日以上仕事を休む方が 年間3万人近くいます。例えば東京都だけも令和3年の統計では、休業4日以上の死傷者数は12,876人で、このうち転倒災害は2,582人と全体の2割を占めており、60歳以上の割合で約4割、50歳以上の割合となると約7割を占めています。
11月に入り寒くなってくると、屋外では路面に積もった雪や氷で転倒の可能性が一層高まる時期でもあります。オフィス内でも電源から延びた延長コードが絡まったり、飲食店では排水処理の関係で厨房では床が底上げされていて、その段差が大きくて転倒するなど、事業所内外でも転倒災害が発生しており、2021年の人口動態調査によると転倒・転落で亡くなる方は交通事故で亡くなる方よりも多く、転倒災害の防止は生活者にとっての重要課題と言えます。
よくある転倒のパターンから、転倒を未然に防ぐ職場での対策や、冬場に気を付けたい転倒を防止する方法を参考にして下さい。

1:転倒の典型的パターン

転倒災害には3つの典型的なパターンがあります。いずれもちょっとした原因が大きな災害に繋がります。
①滑り
床の素材が滑りやすいものであったり、床に水や油などが残ったままの状態であったりすると、滑って転倒しやすくなります。ビニールや紙など、滑りやすい異物が床に落ちているのも危険です。
②つまずき
床に凹凸や段差があり、つまずいて転倒したという例が多くあります。また、放置されていた荷物や商品などにつまずいたというケースがあります。
③踏み外し
大きな荷物を抱えて階段を下りるときなど、足元が見えづらいときに足を踏み外し、転倒することがあります。

2:転倒防止対策

事業所はそれぞれ環境や条件に違いがあり、転倒防止はそれぞれの職場で問題点を見つけ出し、解決する必要があります。転倒の危険性がある場所や環境を見つけ出し、対策を立てるために事業所内で協議してみて下さい。
<「KY活動」で潜んでいる危険を見つける>
KY活動(Kは「危険」、Yは「予知」の頭文字です)は、業務を始める前に「どんな危険が潜んでいるか」を職場で話し合い、危ない点について合意をした上で対策を決め、設定された行動目標や指差し呼称項目を一人一人が実践することで、安全衛生を先取りしながら業務を進める方法です。
忙しい時間帯などは、4S(整理・整頓・清掃・清潔)活動がおろそかになって作業通路が汚れてしまったり、作業を急 ぐあまり注意力が散漫になるなどにより、転倒災害のリスクが増加するため、過去の災害の 災害事例を基にしたKY(危険予知)活動も、積極的に進めましょう。
<転倒防止対策のポイントチェック>
①設備管理面の対策【4S】
□歩行場所に物を放置しない
□床面の汚れ(水、油、粉等)を取り除く
□床面の凹凸、段差等の解消
②転倒しにくい作業方法【焦らない・急ぐ時ほど・落ち着いて】
□時間に余裕を持って行動
□滑りやすい場所では小さな歩幅で歩行
□足元が見えにくい状態で作業しない
③その他の対策
□作業に適した靴の着用
□職場の危険マップの作成による危険情報の共有
□転倒危険場所にステッカー等で注意喚起
□体操による筋力維持・アップ
<安全の見える化~職場の危険マップを作成~>
「安全の見える化」は、職場にひそむ危険を写真や危険マップなどにより、目に見える形にすることによって効果的に安全活動を展開する取組です。誰でも参加することができ、中小企業でも、また、業種に関係なく取り組めます。
日頃取り組んでいる安全活動を見える化することにより、労働者の安全意識が高まり、また、他の監督者・指揮者からも安全な作業の遂行状況が明確になり、更なる取組の活性化に繋がります。

【階段の「安全を見える化」した一例】
*踏面に反射テープ貼付
*足下照明設置
*一時停止表示
*左右確認表示
イラスト:職場のあんぜんサイト「労働災害事例」より抜粋

3:冬季の転倒防止対策

冬季は、積雪や路面の凍結などにより転倒災害が多く発生する傾向があります。次の4つに留意して転倒災害を防ぎましょう。
【1】天気予報に気を配る
寒波が予想される場合などには、労働者に周知し早めに対策をとりましょう。
【2】時間に余裕をもって歩行、作業を行う
悪天候による交通機関の遅れが見込まれる場合は、時間に余裕をもって出勤するようにし、落ち着いて作業をするように心がけましょう。屋外では、小さな歩幅で靴の裏全体を地面に付けて歩くようにしましょう。
【3】駐車場の除雪・融雪は万全に、出入口などにも注意する
駐車場内や、駐車場から職場までの通路に、除雪や融雪剤の散布を行いましょう。また、出入口には転倒防止用マットを敷き、照明設備を設けて夜間の照度を確保しましょう。
【4】職場の危険マップ、適切な履物、歩行方法などの教育を行う
職場内で労働者が転倒の危険を感じた場所の情報を収集し、危険マップなどにより労働者に伝えるようにしましょう。また、作業に適した履物選びや、雪道や凍った路面上での歩き方を教育しましょう。

<冬靴の耐滑性にはご注意を!!>
水・油用の耐滑靴、氷上用の耐滑靴、粉体上の耐滑靴は、それぞれ対策が異なります。市販されている耐滑靴の多くは「水・油用」ですので、雪や氷の上では滑ることがあります。したがって、耐滑靴といえども、冬季の屋外使用では注意が必要となります。

4:転倒災害で参考になるサイト

転倒災害防止について詳しい安全衛生マネジメント協会のサイト
一般社団法人安全衛生マネジメント協会では転倒災害の防止に関して研究者の解説による転倒災害の発生場所や原因別災害状況など、具体例も交えながら紹介しています。また、労働災害に関する安全管理者向けの講習会も開催し、ホームページで申し込みも出来る様になっています。

厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」
厚生労働省が開設している、職場の安全を応援する情報発信サイト「職場のあんぜんサイト」では「STOP!転倒災害プロジェクト」として、転倒災害対策について詳しく紹介し、実際に対策をした企業の取り組みについても取り上げ、各種リーフレットやポスターなどをダウンロードできるようにもしています。

あとがき

長く勤務している職場だと、いつの間にか見慣れてしまい、どこに転倒災害の可能性があるのかが分かりにくいと思います。そういう時は別の職場の人や産業医に同行してもらうと、転倒の危険性が有る場所を第三者目線で見つけ出してくれると思います。
産業医 関谷剛

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