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産業医 関谷 剛 メッセージ

熱中症対策~6月からの義務化に向けて~

統括産業医の関谷です。
気候変動とヒートアイランド現象による影響もあって、春の軽やかさから夏の暑さが訪れるのは以前より早くなり、最高気温が38℃を超えるような猛暑が連日続くようになっているのは、皆さんも感じられていると思います。
東京の年平均気温は、過去100年で約3℃の上昇がみられ、この気温上昇によって熱中症の発生が相次いでおり、仕事中においても熱中症が多数発生しています。昨年1年間の職場における熱中症の発生状況は、死亡を含む休業4日以上の死傷者1,195人、うち死亡者は30人となっていて、この死者のうち97%は初期症状の放置や対応の遅れがあったと分析されています。
この事態を重く見た政府は、2025年6月1日から労働安全衛生規則改正を施行させ、全ての事業者に対して熱中症対策を義務付けました。働く環境や働き方の違いに応じて事業所ごとに、熱中症対策の整備から報告体制に教育義務まで求められており、罰則規定も設けられています。この機会に熱中症に関しての予防と対処について学び、死亡事故発生後に「対策を知りませんでした」とならないように、社員全員で共通認識を持つように社内体制を構築してください。

1:熱中症とは?

■高温多湿によって引き起こされる症状の総称■
熱中症とは、高温多湿な環境下で、発汗による体温調節等がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態をさします。屋外だけでなく室内で何もしていないときでも発症し、場合によっては死亡することもあります。
熱中症には「熱失神」「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」という病名はありますが、発症する時は状況や体調によってさまざまな症状が混在して発生します。具体的な症状で示すと、めまい、たちくらみ、顔のほてり、筋肉痛、吐き気、集中力の低下やけいれんがあります。例えば、高温多湿の状況で、声を掛けても反応しなかったり、おかしな返答をしたり、身体がガクガクとひきつけを起こしたり、真っ直ぐ歩けないなどの異常があるときは、重度の熱中症にかかっており、直ぐに医療機関を受診させるようにしてください。

2:今から行う熱中症対策

いつでも、どこでも、誰でも条件次第で熱中症にかかる危険性があります。熱中症はリスク要因として何があるかを学び、正しい予防方法を知り、普段から気をつけることで防ぐことができます。

■暑熱順化を行う■
暑さに慣れていないと、熱中症になる危険性が高まります。そこで、暑くなる前に身体を暑さに慣れさせておけば、暑さに強くなって熱中症になりにくくなります。このように身体を慣れさせることを暑熱順化と言います。
体を暑さに慣れさせることが重要なため、実際に気温が上がり、熱中症の危険が高まる前に、無理のない範囲で汗をかくことが大切です。日常生活の中で運動や入浴をして、しっかり汗をかくことで、暑くなった時に早く汗が出るようになり、体温の上昇を食い止められるようになります。
暑熱順化には個人差もありますが、数日から2週間程度かかります。暑くなる前から余裕をもって暑熱順化のための活動を始め、暑さに備えましょう。屋外での業務がある事業所では特に新規採用者等に対しては、夏場の労働環境に慣れている他の従業員と同様の暑熱作業を行わせないよう、計画的な暑熱順化プログラムを組むようにしてください。

■作業環境管理と労働衛生教育■
屋外の高温多湿作業場所においては、作業環境の熱中症予防対策も必要になってきます。例えば屋外作業場所では、直射日光ならびに、周囲の壁面及び地面からの照り返しをさえぎることができる簡易な屋根等を設けたり、近くに冷房を備えた休憩場所、または日陰等の涼しい休息場所を確保するようにしましょう。
高温多湿作業場所に従業員を従事させる場合には、適切な作業管理、従業員自身による健康管理等が重要であることから、作業を管理する者及び全ての従業員に対して、あらかじめ「熱中症の症状」「予防方法」「緊急時の救急処置」「熱中症の事例」について労働衛生教育を行う事が重要です。なお、屋外の高温多湿作業場所では、作業場所の気温や湿度の測定、従業員の体温測定なども記録しておくようにしましょう。

3:猛暑期間中の予防策

■前日、仕事前、仕事中の注意点■
働く人自身が猛暑の時期に熱中症に気を付けるため「前日」と「仕事前」「仕事中」と注意ポイントを3つに分けています。セルフチェックできる図を厚生労働省が公開しています。

(図1:厚生労働省作成パンフレット「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」より抜粋)

■早期発見、早期処置で命を守る■
夏の暑い時期に、仕事中に職場の同僚が熱中症を疑う症状が見られた場合の分かりやすい対応のフロー図を複数、厚生労働省が作っていますので、ぜひ参考にして下さい。
現場で応急処置をすることで、症状の悪化を防ぐことができますから、早期発見と早期処置を心がけるようにしてください。

(図2:厚生労働省パンフレット「職場における熱中症対策の強化について」より抜粋)

4:熱中症対策で参考になるサイト

厚生労働省 「職場における熱中症予防情報」専用サイト
今年6月からの労働安全衛生規則改正を周知させるために、厚生労働省では「学ぼう!備えよう!職場の仲間を守ろう!職場における熱中症予防情報」という名称の専用サイトを開設しています。インドネシア語やベトナム語など複数の言語で各種リーフレットがダウンロード出来るようになっています。

環境省 熱中症予防情報サイト
環境省と気象庁と共同で運用する「熱中症警戒アラート」などの警戒情報は、この環境省熱中症予防情報サイトで発信しています。また、LINEの環境省アカウント、メール配信サービス等も、このサイトから配信サービスの登録が出来るようになっています。

東京都環境局 熱中症対策ポータル
東京では、猛暑日や熱帯夜が増加するなど夏の暑さが課題となっており、東京都庁では暑さ対策を進めてきました。熱中症対策として東京都が取り組みを進めている事例について専用サイトを開設して紹介しています。

一般社団法人日本気象協会運営サイト 熱中症ゼロへ
熱中症にかかる方を減らし、亡くなってしまう方をゼロにすることを目指して、一般財団法人日本気象協会が「熱中症ゼロへ」というプロジェクトを立ち上げ、専用サイトを作っています。熱中症の発生に大きな影響を与える気象情報の発信を核に、より積極的に熱中症対策を呼びかけているサイトです。

NHKきょうの健康 「熱中症に脱水症…夏の救急にどう対応?」
毎年夏に発症のピークを迎える熱中症は、患者の半数以上は65歳以上です。高齢になると暑さを感じにくくなり、汗もかきにくくなるため、脱水症にもなりやすく、脳梗塞や心筋梗塞の発作を起こすリスクもあがり、命に関わることもあり、番組では危険な症状とその対処法を紹介。さらに救急車をよぶタイミングや、迷ったときの対処法もくわしく解説しています。

YouTubeチャンネル「関谷剛の産業医こぼれ話」 2025年6月『熱中症対策』
医師・産業医の関谷剛先生が、この通信と同じテーマについて解説した動画を毎月公開しております。文章だけでは伝わりにくい、病気予防のポイントや産業医としての経験談などを自らの言葉で説明しています。YouTubeチャンネルで御覧頂けますから、事業所でもご家庭でもぜひ御覧下さい。

あとがき

全ての事業所に対して「熱中症対応マニュアル」の作成と従業員への周知も義務化に含まれています。マニュアルの作成では職場ごとに対策方法も異なりますから、まずは産業医に相談してみてください。(産業医 関谷剛)

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