冬のウイルスの複数感染~コロナとの同時感染に備える~

10月を迎え、本格的な秋の深まりを感じる季節となり、事業所内でも冬の感染症シーズンに向けた準備を進められていることと存じます。今年は、9月の段階で早くも日本各地でインフルエンザの流行が始まるという異例の事態となっています。東京都では9月17日に「注意報」レベルに達したと、昨年よりも1ヵ月以上早い発令となりました。現況から推測すると、10月には「流行警報」が発令される可能性があります。
2025年夏以降、国内外において、インフルエンザウイルスA型(H3N2)の変異型ウイルスで、別名「サブクレードK」と呼ばれるウイルスが流行しました。国立健康危機管理研究機構が今年9月2日に発表した直近5週間に集団感染が確認された事例のうち、ウイルス検査を行ったところ、A(H1N1)pdm09型(2009年に大流行したタイプ)が最も多く、サブクレードKも検出されています。
このように流行が早まっている今年の冬に、特に気をつけたいのが複数のウイルスにかかってしまう「複数感染(complex infection/mixed infection)」です。
同じシーズンに複数のウイルスに感染して発症すると、症状が長引いたり重症化したりする可能性があるため、状況に応じた受診や休養が重要です。今号では、会社で働く皆様が自分と職場を守るために知っておきたい冬のウイルスの複数感染についての基礎知識と対策を分かりやすく解説します。
[Ⅰ]同時流行の脅威
冬場に「一度インフルエンザにかかったから、今年はもう安心」という過去の経験則は、通用しなくなりつつあります。
■早まる流行の波
厚生労働省の発生動向調査でも、今年は9月から患者数が急増しており、昨年も早い時期からインフルエンザ感染が広がりました。地球規模での気温の上昇、集団免疫の変動、インバウンド増加による人流の活発化など、複数の原因が影響していると考えられ、これらの要因により例年以上に早い時期からインフルエンザの流行が始まったと推測されています。
■複数感染のリスク
インフルエンザに感染していると判断されると、会社には最低でも5日間は出勤しないのが通例です。そして、事業所内で他の感染症に感染した社員が出ると、病気の種類にもよりますが、やはり最低でも5日間は出社できなくなります。冬のウイルスによる感染症は、感染力が強く、短期間で複数の従業員が同時にり患する集団感染(クラスター)が発生するリスクが高まります。
もし、一人でも複数感染が判明した場は、職場の感染状況を確認し、体調不良者には出勤を控えて医療期間や産業医などへ相談するように案内します。また、複合感染でも同時感染だと、症状が複雑化、長期化しやすく、復帰判断を下すのが難しくなります。仮に社内で、同時感染が複数名現れた場合、集団感染を防ぐ必要性と、安全配慮義務の観点から、疑わしい症状が出ている段階で出勤停止を検討することにも繋がり、業務運営に大きな影響を及ぼすリスクが生じます。
[Ⅱ]複数感染の種類
ウイルスの複数感染(複合感染)には、「病原体の数」と「感染の時間関係(同時か逐次か)」によって区別されます。異なるウイルスに同時期に感染すると「同時感染/重複感染(coinfection)」や「二重感染(dual infection)」、3つ以上の場合は「多重感染(multiple infection)」と呼ばれます。さらに、インフルエンザに感染している間に、後続のウイルスが加わる場合は「重感染(superinfection)」になり、インフルエンザが治った後に再び同じインフルエンザに感染すると「再感染(reinfection)」に分類されます。
■同時にかかりやすい感染症
1:インフルエンザ(A型とB型の重感染) インフルエンザウイルスには主に「A型」と「B型」があります。実は同じシーズン中にA型とB型に順番にかかる重感染だけでなく、極めてまれに両方の型へ同時感染することもあります。
2:新型コロナウイルス インフルエンザと重複しやすいとされる感染症です。どちらも呼吸器を中心に激しい炎症を起こすため、重なると激しい喉の痛み、強いだるさ、長引く息苦しさなどが現れます。
3:RSウイルス・マイコプラズマ肺炎など 子どもの病気と思われがちですが、大人にも感染します。特に「激しい咳」が何週間も続くのが特徴で、インフルエンザと同時にかかると肺炎を引き起こしやすくなります。
■同時期に複数感染する理由
ウイルスによる感染症が同じ時期に複数発症するのには、明確な理由があります。
[1]環境要因 冬場に空気が乾燥すると、ウイルスの水分が抜けて軽くなり、空気中に長時間漂いやすくなります。さらに、寒さと乾燥で鼻や喉の粘膜が乾くと、身体が本来持っている「ウイルスを外へ追い出すバリア機能」が低下してしまいます。
[2]免疫力の低下 冬の寒さで、人間の身体の免疫力が落ちていることも理由の一つです。例えばインフルエンザを発症してしまうと、更に免疫力が落ちてしまい、他の感染症にもかかってしまいやすくなります。
インフルエンザもコロナウイルスも、よく知っているはずの感染症ですが、多くの人は熱や咳が出ても「風邪かな」と思ってしまいがちです。
①初期症状が酷似している
咳が出たり、熱が出るなどの初期症状が、冬の感染症ではどれも似ているため、どうしても風邪と似通っていることが最大の原因です。
②検査を受けないとわからない
また、多くの患者を診察してきた経験から申し上げると、「自分に重い病気は起こらない」と確率を低く見積もる傾向(楽観性バイアスと言います)が、人の深層心理に働いていることもあると思えます。
[Ⅲ]会社の予防策
複数感染から自分自身を守り、職場での集団感染を防ぐために、今日から社内で実践できる3つの具体的な防衛策を整理します。
■ワクチン接種の推奨
重症化を防ぐ第一の壁: ワクチンは感染そのものを減らすだけでなく、「万が一かかっても重症化させない」ために信頼できる手段の一つです。インフルエンザとコロナウイルスの 2 つのワクチンを受けておくことで、同時感染時のリスクを抑えることができます。
同時接種の活用: 厚生労働省の指針通り、インフルエンザと新型コロナのワクチンは同 時に接種することや、短い間隔で打つことが認められています。職域接種や費用補助などを通じた接種推奨が有効です。
■職場の空気と湿度管理
重症化を防ぐ第一の壁: 各職場にエアコンが整備され、働きやすい室内温度で働かれていると思います。冬のシーズンではウイルスが繁殖・滞留しやすい環境を作らないことが肝心です。
| 管理項目 | 職場での具体的な実施アクション |
| こまめな換気 | 1 時間に 2 回ほど、対角線上の窓を少し開けて空気の通り道を作る |
| 適正湿度の維持(50~60%) | 加湿器を稼働させ、鼻や喉の粘膜を潤す(湿度が上がるとウイルスが |
| 衛生管理の徹底 | ドアノブや共有物に触れた後の手洗い・アルコール手指消毒の習慣化 |
■出社を止めるルール
体調不良時の自宅待機: 「少し熱があるが動けるから」という無理な出社が、職場内へ複数のウイルスを一度に持ち込む原因になります。発熱や酷い咳がある場合は、自宅待機・リモートワークへ切り替える運用を徹底しましょう。感染が確定したら、一定期間の出勤停止を社内で定めましょう。具体的な日数は、学校の基準を参考にした「発症後 5 日を経過し、かつ解熱後 2 日を経過するまで」が目安です。
早期受診と早期治療: 違和感を覚えたら早めに医療機関を受診しましょう。また、会社で疑わしい症状を発症している人を見つけたら、他人事とは決して思わず、自分事として直ぐに受診を促しましょう。同時検査を受けた上で適切な抗ウイルス薬を服用することが、早期回復と周囲への感染拡大防止につながります。
[Ⅳ]複数感染で参考になるサイト
厚生労働省 インフルエンザ(総合ページ)
インフルエンザの解説や症状、治療方法に関する情報に加え、啓発ツールとしてパンフレットもダウンロードできる厚生労働省のサイトです。
東京都感染症情報センター インフルエンザ
東京都のインフルエンザの流行状況をシーズンに入ると毎週、患者数を報告をしている東京都健康安全研究センター健康危機管理情報課のサイトです。新型コロナウイルスをはじめ、一類から五類までの感染症の情報も掲載しています。
厚生労働省 新型コロナウイルス・季節性インフルエンザの同時流行に備えた対応
新型コロナウイルスが流行した後、2022 年 10 月から厚生労働省でもインフルエンザとの同時感染が広がることを警戒して、関係する団体・学会、経済団体、国・地方の行政機関等と連携し「新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース」を設立し、同時感染への警告と感染後の対策について専門ページを開設しています。
国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
日本国内で今どんなウイルスが検出されているか、最新の疫学データが閲覧できます。
★YouTubeチャンネル「関谷剛の産業医こぼれ話」 2026年10月『冬のウイルス複数感染』
医師・産業医の関谷剛先生が、この通信と同じテーマについて解説した動画を毎月公開しております。文章だけでは伝わりにくい、病気予防のポイントや産業医としての経験談などを自らの言葉で説明しています。YouTubeチャンネルで御覧頂けますから、事業所でもご家庭でもぜひ御覧下さい。
編集後記
体調に異変を感じたら「無理せず休む・休ませる」という組織風土を作ること、そして「換気・加湿」や「ワ クチン接種」といった基本的な予防を徹底すること。これが、この冬の感染症リスクから会社と社員を守 る何よりの防壁となります。今年の冬は複数感染への早めの準備を進めてまいりましょう。(産業医 関谷剛)



















