夏のメンタル不調~休暇明けの離職・欠勤を防ぐ~

統括産業医の関谷です。
本格的な夏が到来しました。人事労務の皆様、新入社員の配属や上半期の評価などが一段落し、ほっと一息つかれている頃でしょうか。しかし、産業医の視点からお伝えすると、「7月はメンタル不調のサインを見落としやすい時期」の一つです。
五月病や六月病の季節は過ぎ、梅雨による沈みがちな気分もなくなる7月は、多くの社員が「8月の夏休みまであと少しだから」と無理を重ねがちです。しかし、夏は「酷暑による睡眠不足や夏バテ」という肉体疲労の裏に、深刻な心の悲鳴が隠されてしまいがちになるのです。そして、ようやく迎えた休暇中に緊張の糸が切れた結果、休み明けに「突然の欠勤や退職願」となって表面化します。
これを防ぐため、7月の今だからこそ職場では夏のメンタル不調の原因を知り、会社として実践しておきたい「先回りの見守りとアプローチ」について解説します。
1:夏場の不調とは
夏場の不調の代表として挙げられるのは熱中症や夏バテでしょう。2026年4月、気象庁は最高気温40℃以上の日を「酷暑日(こくしょび)」とする新しい予報用語を設けました。以前からあった最高気温35℃以上の「猛暑日」を含めて、近年は記録的な高温が続くことで、熱中症のリスクは以前よりも高くなっています。これまで日本では経験したことのない猛暑日や酷暑日の増加によって、高温多湿での生活に心身がついていけずにメンタル不調につながってしまうことを知っておいてほしいです。
夏のメンタル不調では「遅刻が増える」「ミスが目立つ」といった明確なサインが出る前の、前兆を捉えることが重要です。私の産業医としての経験上、特に夏場に注意すべきなのは「マイナスの行動」だけでなく、「不自然なプラスの行動」です。
例えば、以前面談したある営業職の社員は、遅刻もミスもなく、一見元気に働いていました。しかし、周囲が「最近、彼がいつも飲んでいる缶コーヒーの数が、1日1本から4本に急増している。なんとなく目がうつろだ」という微細な変化に気づき、面談につながりました。詳しく話を聞くと、暑さで深刻な不眠に陥っており、日中の集中力低下をカフェインで無理やり誤魔化している状態でした。
2:不調の現れ方を知る
熱中症や夏バテは、人によって発症の条件や症状の現れ方に違いがあります。要因の一つとして、体格や筋肉量、基礎代謝など個人差が影響することがあります。
■内勤と外回りの違い■
夏のメンタル不調では、空調の効いた室内で働いている人と、空調の効かない屋外での作業や営業などで屋外で動き回ることが多い職種では、不調の原因が大きく異なります。
一日中冷房の効いた部屋にこもることで身体が冷えると、血管が収縮して血流障害を起こし、細胞に酸素や栄養を十分に運べないことから、内臓の機能が低下します。血色が悪くなり、手足が冷える、しびれる、むくみが出る、肩こりや頭痛が起こる、というようなことから始まります。重症になると、自律神経が乱れ、気分の落ち込みを招きやすくなり、メンタル不調につながっていきます。
症状の現れ方としては、冷えや頭痛・肩こりの頻繁な訴え、PCのタイピング音が急に激しくなる、離席の回数が増える(または極端に減る)などが挙げられます。
屋外作業での不調
高温多湿な環境下において、体内の水分及び塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、循環調節や体温調節などの体内の重要な調整機能が破綻するなどして発症する障害の総称が熱中症です。
納品日が迫っている等の理由から、夏の酷暑日や猛暑日であっても、作業を遅らせられないことで業務過多になったり、長時間の屋外労働によって自律神経を乱してメンタル不調に陥ったりします。
不調の表れる兆しとして、いつもに比べて「口数が極端に減る」、水分補給や休憩をとるのを忘れるほどの「不自然な過集中」が見られたりします。
■年齢や性別による症状の違い■
暑さや冷えの感じ方、気温変化への感受性には個人差があります。一般に、体格や筋肉量、生活習慣、健康状態などによって違いが出ることがあり、男性は暑さを感じやすく、女性は冷えを感じやすい体質とされています。年齢の若い人は気温の変化を敏感に感じるのに対して、高齢になるほど気温の変化に鈍くなる傾向はあります。
職場でも事務所内の空調を使用していると、温度の感じ方には個人差があるため、設定温度の方針(例:推奨範囲、服装での調整、席替えやスポット空調の活用、申告窓口の設置など)を社内で共有し、運用ルールを整えることが望ましいです。また、平均値だけでなく個別事情にも配慮できる形にすると安心です。
メンタル不調につながらないよう会社としての考え方を決め、空調の設定をしてください。なお、冷房病を予防するという観点から、猛暑日や酷暑日では温度を下げすぎないようにすることをお勧めします。
3:会社の「先回り対策」
8月の休暇明けの離職や欠勤を防ぐため、7月中に会社・人事労務が主導して実践したい具体的なアクションについて説明します。
■夏バテの事前周知■
夏の酷暑日や猛暑日については、気象庁や環境省でも気温の観測情報や暑さ指数(WBGT)予報などの熱中症予防情報をサイトで提供しており、ある程度予測ができます。そこで一週間先、二週間先の天候情報を参考にしながら、熱中症にならないような業務内容の組み立てやスケジュールを考えるようにしてください。
改めて申し上げますが、近年の夏の暑さは、これまでの日本では経験していない高温が続いています。過去に社内で事例がなくても、状況によっては熱中症リスクが高まります。 もし、過去に事例がなくても、今年からは最新の熱中症予防情報を共有し、熱中症や夏バテ、メンタル不調がおきないように周知するようにしてください。
■夏休みの過ごし方周知■
熱中症は自宅で過ごしていても、夏休みの旅行先でも発症する可能性があります。夏休み期間中に、夏の暑さを避けて冷房の効いた室内で毎日過ごしてしまうと、汗をかかない日々を過ごすことになります。きちんと汗をかくことは体調維持には重要で、夏休みを終えて出勤すると、暑さに負けてしまったりします。
そして、「長期休暇中は仕事のチャット(メールなど)を見ない・送らない」というルールを、できれば総務人事から公式に発信してください。休暇中に仕事連絡を控えることは、休養の質を高めるうえで有効とされています。業務特性に応じて、緊急時の連絡方法も含めてルール化を検討してください
7月の時点で、少し元気がなさそうだと周囲が感じている社員に対しては、夏休みに入る前に一度、人事のカジュアル面談や産業医面談をスケジュールしましょう。「休み明けにまたゆっくり話そうね」と、休暇後の予定をあらかじめ作っておくだけで、休暇中の孤立感や、突発的な退職メールを防ぐ、安心感に繋がります。
夏休みに入るからメンタル不調にはならないと昔は考えられていましたが、夏の気温が40℃を超えるようになると、持病の悪化や自律神経の乱れも生じるようになり、夏でもうつ病になることを認識して、事業所内では同僚や部下とのコミュニケーションを取るようにしてください。
4:夏のメンタル不調で参考になるサイト
厚生労働省 心の耳「15分でわかる、部下の変化に気づく方法(e-ラーニング
働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトとして厚生労働省が開設している「こころの耳」では、働く人や家族、事業者などを対象にして、様々なメンタルヘルス対策についての情報を発信しています。働く人向けには、セルフケアやつらいときの対処法や体験記が紹介されており、e-ラーニングとして「15分でわかる、部下の変化に気づく方法」が使えるようにもなっています。
東京産業保健総合支援センター メンタルヘルス対策支援
独立行政法人労働者健康安全機構の東京産業保健総合支援センター(東京さんぽセンター)では、事業所で産業保健活動に携わる「産業医、産業看護職、衛生管理者をはじめ、事業主、人事労務担当者等」を対象に「産業保健に関する研修」や、「専門的な相談への対応」などの支援を行っており、メンタルヘルス対策の支援についても相談やセミナーを実施しています。
YouTubeチャンネル「関谷剛の産業医こぼれ話」 2026年7月『夏のメンタル不調』
医師・産業医の関谷剛先生が、この通信と同じテーマについて解説した動画を毎月公開しております。文章だけでは伝わりにくい、病気予防のポイントや産業医としての経験談などを自らの言葉で説明しています。YouTubeチャンネルで御覧頂けますから、事業所でもご家庭でもぜひ御覧下さい。
あとがき
メンタルヘルスの早期発見において、最も強力な武器は、皆さんが日々職場で感じる「あれ? なんかおかしいな」という直感(違和感)です。私の経験上、人事や現場の方が「なんとなく気になって……」と面談室に連れてくる社員の多くは、深刻化する前段階であることも少なくありません。皆さんの「ちょっとしたお節介」が、一人の社員のキャリアを救い、会社の損失を防いでいます。(産業医 関谷剛)



















