メタボと運動 ~ラジオ体操は立派な運動~
統括産業医の関谷です。
収穫の秋から年末にかけては、美味しい食べ物が増え、宴会の機会も多くなり、体重の増加が気になる季節ではないでしょうか。体重の増加は意識しているものの、増えた分の体重をどう減らして行くかは、なかなか難しい課題になっていませんか?
中高年になると、若い頃のように屋外で激しい動きのスポーツを長時間続けることは出来なくなり、かといって室内のトレーニングジムに通ってマシンを使った運動をおこなうのも辛いと腰が引け、結局エネルギー消費は減ったまま、いつの間にか体重が増え続けている方は多いと思います。
肥満が健康に良くないのは、ご存知の通りです。肥満を解消する方法として中高年層では、先ず身体を動かす習慣を持つことが大切になってきます。激しいスポーツを長時間行うのは心臓などへの負担もありますから、日常の中でメタボリックシンドロームを防ぐような軽い運動や体操を取り入れることをお勧めします。
【1】メタボリックシンドロームとは?
メタボリックシンドロームとは、内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中などになりやすい病態を指します。単に腹囲が大きいだけでは、メタボリックシンドロームにはあてはまりません。
■メタボになる危険性■
日本人の死因の第2位は心臓病、第4位は脳卒中です。この2つの病気は、いずれも動脈硬化が原因となって起こることが多くなっています。動脈硬化を起こしやすくする要因(危険因子)としては、高血圧・喫煙・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)・肥満などがあります。
肥満のうちでも、おなかの内臓に脂肪がたまり腹囲が大きくなる「内臓脂肪型肥満(内臓肥満)」が、高血圧や糖尿病、脂質異常症などをひきおこしやすくし、これら内臓肥満と高血圧や糖尿病、脂質異常症が重複し、その数が多くなるほど、動脈硬化を進行させる危険が高まるという考え方です。
■メタボ診断の基準■
日本では2005年に日本内科学会などの8つの医学系の学会が合同してメタボリックシンドロームの診断基準を策定しました。ウエスト周囲径(おへその高さの腹囲)が男性85cm・女性90cm以上で、かつ血圧・血糖・脂質の3つのうち2つ以上が基準値から外れると、「メタボリックシンドローム」と診断されます。なお、メタボリックシンドロームの診断基準と特定保健指導の基準は少し異なります。
新潟⼤学は、日本の18~74歳の56万⼈の医療ビッグデータを分析し、メタボリックシンドロームの診断基準を構成する各項⽬(ウエスト周囲径、⾎圧、⾎糖、⾎中脂質)の基準値を、実際に⼼⾎管疾患(虚⾎性⼼疾患、脳卒中)を発症したかどうかという結果にもとづいて再設定し、診断基準の修正案を作成したと、2024年春に発表しました。
ウエスト周囲径の基準値を「男性 83cm、⼥性 77cm」と、女性では大きく数値が変更され、さらに従来のメタボ診断で必須項⽬とされているウエスト周囲径を、必須項⽬にしなくても、⼼⾎管疾患の⾼リスク者のスクリーニング能⼒は変わらないなどとしています。
この新基準を⽤い、判定を全体に厳格化することで、とくに⼥性のメタボ該当者は⼤幅に増加すると指摘。虚⾎性⼼疾患⾼リスク者は、⽇本国内の現⾏基準では、とくに⼥性の9割が⾒逃されていますが、これを5割程度スクリーニングできるようになり、⾒逃しを⼤幅に減らせるとしています。今後この新基準案がメタボ診断で使われていくと思われます。
【2】運動習慣と運動の強度
わたしたちの暮らしは、意識して運動を心がけないと運動不足に陥ってしまいがちです。運動不足の生活習慣は、内臓脂肪の蓄積を招き、やがてはメタボになるリスクがあります。
肥満を解消し適切な体重を維持するためには、食生活を改善するとともに毎日の生活に運動を取り入れ、摂取したエネルギーを上手に消費すること、有酸素運動を続けて体脂肪を燃焼しやすい体を作ることが必要です。
■脂肪を燃焼する有酸素運動■
メタボの解消や予防のための運動には、内臓脂肪を減少させることが重要であり、有酸素性運動が効果的です。負荷の比較的軽い(運動強度の小さい)運動は、筋肉を動かすエネルギーとして血糖や脂肪が酸素と一緒に使われることから有酸素性運動(エアロビクス)と呼ばれます。
一方、短距離走のように短時間で強い負荷がかかる(運動強度の大きい)運動の場合は、筋肉を動かすエネルギー源として酸素が使われないため無酸素性運動と呼ばれます。運動中に呼吸をしているかどうかという意味ではありません。
有酸素性運動は脂肪を燃料とするので、血中のLDLコレステロール・中性脂肪や体脂肪の減少が期待出来ますから、冠動脈疾患や高血圧などに効果があります。また運動そのものの効果として心肺機能の改善や骨粗鬆症の予防などが期待できます。
具体的なエクササイズとしては、室内で行われるエアロビクスダンス・エアロバイク・体操としての太極拳、プールを使う水泳・アクアビクス・アクアウォーキングなど、屋外で行われるジョギング・ウォーキング・サイクリング・ハイキング・クロスカントリースキーなどが挙げられます。
■1回あたりの運動時間と強度■
連続して20分以上運動しないと脂肪が燃焼しないと耳にした方もいると思います。しかし、国の研究成果から、運動時間を分割して行っても減量効果に差がないことが認められています。例えば、1日の中で30分間の連続した運動を1回行っても、10分間の運動を3回行っても差はないということです。
内臓脂肪減少のための運動には、有酸素性運動を用いて週10メッツ・時(エクササイズ)以上の運動量を加えることから目標にすると良いと考えられています。
メッツ(METs)とは身体活動の強さを、安静時の何倍に相当するかで表す単位で、座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当します。水泳や柔道を6分行えば10メッツですが、高強度の運動です。強度は高くない運動であるゴルフや体操を18分行えば3.5メッツです。 「メッツ・時」とは、メッツに身体活動時間を乗じた活動量の単位で、エクササイズ(Ex)という表記をされることもあります。
2023年版の運動ガイド推奨の「メッツ・時」とは
厚生労働省がまとめた「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、身体活動量に関して、成人では強度が3メッツ以上の身体活動を週23メッツ・時以上、具体的には歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上行う(1日約8,000歩以上に相当)を推奨。
高齢者では強度が3メッツ以上の身体活動を週15メッツ・時以上、具体的には、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日40分以上行う(1日約6,000歩以上に相当)ことを勧めるようになりました。
2023年版の特徴としては、近年のライフスタイルの変化で、成人・高齢者ともに長時間椅子に座っている生活習慣を改めるように、「座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように注意する(立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす)」と明記されています。
2023年版の特徴としては、近年のライフスタイルの変化で、成人・高齢者ともに長時間椅子に座っている生活習慣を改めるように、「座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように注意する(立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす)」と明記されています。
*医療機関に通院中の方は、運動の可否について医師に相談してから行いましょう。
*治療中の病気がない方は、最低年1回は健診等で血圧や採血結果に問題がないか確認しましょう。
*体調不良がある、血圧がいつもより高いなどの症状があるときは運動をしないようにしましょう。
*運動を行う前にはウォーミングアップ(準備体操など)を必ず行い、徐々に心拍数や負荷量を上げましょう。
*運動中はいつもと違う症状や疲れに注意し、20分に1回程度は水分摂取を心がけましょう。
*運動後はクーリングダウン(整理体操など)を行い、徐々に心拍数を下げていきましょう。
【3】ラジオ体操も運動
強度の身体活動を1日60分以上行ったり、1日約8,000歩以上を歩くというのは、事業所へ勤務している会社員では、時間や場所を確保するのが難しいかもしれません。そこで、お勧めするのが一人でも出来るラジオ体操です。
■ラジオ体操の効果■
ラジオ体操が日本でこれほど長く愛されてきた理由は「手軽さ」にあるといえます。老若男女問わず、誰でも、どこででもすぐにできる手軽さがラジオ体操の魅力でしょう。しかもラジオ体操第1は3分11秒、少し難易度の上がる第2は3分30秒と、まとまった時間がなかなか取れない現代人にはぴったりの身体活動です。
短い時間に13種類もの運動が組み込まれ、全身をまんべんなく動かせるよう考えて作られているラジオ体操は、運動強度でもラジオ体操第1で4.0 メッツ、ラジオ体操第2では4.5 メッツと、普通に歩くと3メッツの強度の身体活動なので、ラジオ体操は短い時間ながらも普通に歩くより強い活動量の運動です。
長い間ラジオ体操から離れていても、物心ついた頃から学校でも流されていたラジオ体操の伴奏音楽を聞けば、自然に身体が動くというのもラジオ体操のメリットです。もし動きを忘れてしまっていてもラジオ体操の図解はNHKのホームページで見ることが出来ますし、伴奏音楽もダウンロード出来る時代です。伴奏音楽をスマホに入れて、自宅でも事業所でも音楽を流して、室内でも出来る体操ですから、身体をしっかりと大きく動かすようにして、大きく呼吸することも意識し、エネルギー消費を促してください。
日本では野球やサッカーが最もポピュラーなスポーツですが、残念ながらある程度の人数が集まらないと運動にはなりません。メタボを防ぐ為には、運動を毎日続けることを求められていますから、ラジオ体操のような一人でも出来る体操術を試して、自身のライフスタイルに取り入れてみることをお勧めします。
◆日本で最初の健康体操「自彊術」
大正5年(1916)、中井房五郎氏によって創案された日本最初の健康体操として自彊術(じきょうじゅつ)があります。機械器具は用いずに、たたみ一畳の空間で、各人の身体状況に応じ、独自の呼吸法を用いながら、身体の各部分を順序よく動かす全身運動です。
31の動作がありますが、何歳からでも始められ、生涯続けられる優しい健康体操で、熟練すれば1回15分の時間で出来ます。
公益社団法人 自彊術普及会
◆自治体が公開している「ご当地体操」
全国各地の自治体が独自に考案して、ホームページやYouTubeで公開している「ご当地体操」があります。それぞれの地域の特産や特徴を活用しながら、体操の専門家の協力で、気軽に出来る体操を作っています。
高齢者の転倒防止や認知症予防というような、テーマを絞り込んでいますから、ご自身の健康状態に合致した体操を見つけて試して見ることもできます。地元の音頭や童謡を伴奏音楽に使ったりしていますので、音楽を聞きながら身体を動かす習慣付けに出来るかも知れません。
公益財団法人健康・体力づくり事業財団サイト「ご当地体操」より
【4】体操で参考になるサイト
厚生労働省 標準的な運動プログラムページ
厚生労働省のホームページには健康と運動に関する情報提供をしています。肥満症・メタボリックシンドロームの人を対象にした運動プログラムについての情報提供や、成人向けと高齢者向けの身体活動指針(アクティブガイド)については、それぞれカラーのパンフレットにまとめられ、ダウンロード出来るようになっています。
日本放送協会(NHK)のラジオ体操
ラジオ体操の開催場所や放送予定についての案内がNHKのホームページにあります。ラジオ体操の図解がダウンロード出来るようになっていますが、図解ではそれぞれの体操についての動きの意図について解説が付いています。座位行動の長い方や高齢者を意識した「座ってのラジオ体操」も図解をダウンロード出来るようになっています。
あとがき
検診でメタボと指摘された後、新たに運動を始めるだけでなく、食事の量やお酒に喫煙習慣の他、睡眠やストレス、持病の種類などの要素を含めて検討が必要かもしれません。お気軽に産業医に相談してみてください。(産業医 関谷剛)