気象が原因の体調不良 〜気圧と気温の変化でおこる病気〜
統括産業医の関谷です。
近年は夏から秋にかけて大型の台風が何回も日本を直撃したり、猛暑から突然集中豪雨が降り始めるような熱帯地域のような気象に変化してきました。
台風の前に関節が痛んだり、気温が急に変わる季節の変わり目に頭痛を感じたりするような症状に悩まされていませんか? それはもしかしたら気象病かもしれません。病気のなかで、気象の影響を受けるものを近年では「気象病」として捉えるようになりました。気圧の急激な変化に体がついていけずに発症したり、短時間での寒暖差によってもおこり、症状の出方が頭痛やめまい、首肩が痛くなったり、気分の落ち込みや古傷の痛みなど、人によって発症する箇所や重さが違うという特徴があります。
気象の変化により不調などの悪影響を受けない人にとって、気象病のつらさはなかなか理解できない、見えない不調かもしれません。そのため、「大げさでは?」「気の持ちよう」などといわれることもありますが、本人には苦しい症状です。
「気象病」にはいくつか種類があり、痛みや気分障害に関するものを「天気痛」、寒暖差が大きいと自立神経が過剰に働き疲労がたまる「寒暖差疲労」等があり、屋外で働いている人だけでなく、室内で働いている人でも発症します。更に、最近では以前よりも気候変動が大きくなっている影響もあり、気象病の症状で来院する患者さんは年々増えていると指摘されており、ぜひこの機会に気象が原因となる体調不良について関心を持って頂き、事業所内で気象病にならない環境作りや、気象病に悩む方への対策に役立てて下さい。
<1>気象病とは
様々な病気のなかで、これまで症状は出ているものの、実際の原因が何であるか分からないものがありました。従来から雨が降ると古傷が痛むという症状が出ることは知られていましたが、近代に入って気圧計などを始めとして計測機器の進化もあり、気圧や気温など気象の影響を受ける病気を総称して「気象病」と呼ぶようになりました。また、天気が悪くなると痛みが悪化したり、寒暖差による不調のなかで痛みや気分障害に関するものを「天気痛」と呼ぶこともあります。
気象病・天気痛の症状には、頭痛だけでなく、めまい、耳鳴り、倦怠感、うつ等もあり、症状やその重さも人によって様々です。病気を発症するメカニズムとして、内耳と自律神経失調が関係している事が明らかになってきています。
◆気象病の症状は?◆
気圧、温度、湿度などの変化に対して体がうまく適応できないことによって症状が悪化するのが「気象病」です。特に、もともと頭痛や関節痛がある人などでは、その症状が悪化することも少なくありません。気象変化の影響を受けやすい慢性痛には、片頭痛、緊張型頭痛、関節リウマチ、変形性関節症、肩こり、腰痛、線維筋痛症などがあります。また、気分が落ち込みやすかったり、だるくなりやすい、めまいやぜんそくなどの症状がある人も、気象変化によって症状が悪化しがちです
◆気象病はいつ発症?◆
心あたりがないのに突然体調が悪くなったり、原因不明の不調を感じたりする場合は、気象病の可能性があります。気象病では、気圧の変化は不調に大きく影響すると考えられており、悪天候の最中だけでなく、天気が変化する前後に起こることもあります。
気象病が発症しがちな気象条件
1.台風シーズン:台風は低気圧の塊で、気圧変化が大きい。普段はさほど症状が出ない人も不調を起こしやすい
2.天気が崩れるとき:天気が崩れる2~3日前、回復するときなどに症状が表れやすい
3.季節の変わり目:特に春先は三寒四温といわれるように気温の差が大きく、気圧変動も大きいため症状が出やすい
4.梅雨時:湿気が多く、低気圧が続く。関節痛が悪化することも
<2>天気痛とは
民間では世界最大の気象情報会社である日本のウェザーニューズでは「天気痛調査」としてアンケート調査を毎年実施していますが、2023年の調査では「あなたは天気痛(気象病、天気頭痛など)を持っていますか?」と質問したところ、「はい」 または「持っている気がする」と回答した人が全体の7割近くとなり、多くの人が天気痛の症状の自覚を持っていることがわかりました。性別で見てみると、女性は半数以上が天気痛持ちで、「持っている気がする」と回答した人を合わせると、8割以上の人に天気痛の自覚があることがわかりました。
この調査では天気痛持ちの人は台風の接近に伴い、約9割近くの人が不調を感じることがあると回答しており、普段は天気痛持ちではない人の中でも1割近くの方が、台風の接近に伴い不調を感じる経験をしていました。
◆天気痛の不調とは◆
気象の変化によって持病が悪化する「気象病」のうち、痛みや気分障害に関するものを「天気痛」と呼びます。「天気痛」の症状や出るタイミングは人それぞれで、頭や首・肩などが痛くなる、気持ちが落ち込む、めまいがするなどの、体や心の不調以外にも、古傷の痛み、関節リウマチや喘息、更年期障害が悪化するなど多岐にわたります。
まずは、ご自身に「天気痛」の可能性があるか下記のチェックリストで確認してみましょう(図1)。当てはまる数が多いほど、「天気痛」の可能性があります。
(図1)出典:全薬グループのHP「健康情報」より
◆天気痛の原因◆
天気の崩れとともに体調が崩れてしまう理由は、気圧の変動にあります。気圧は天気の移り変わりとともに変動していますが、その変化を感じるセンサーが、耳の奥にある内耳と考えられています。内耳が急激な気圧の低下または上昇を感じると、交感神経(体を緊張させる神経)と副交感神経(体をリラックスさせる神経)からなる自律神経のバランスが乱れてしまいます。交感神経が活発になりすぎると痛みの神経を刺激し、頭や古傷が痛くなります。一方、副交感神経が活発になりすぎると、倦怠感や気分の落ち込みを感じます。
「天気痛」が起こりやすい方は、内耳が敏感で、気圧の変化を感じ取りやすい状態といえます。例えば、乗り物酔いをしやすい方は、内耳が敏感になっている可能性があるので要注意です。その他にも、気温差の大きい春先や低気圧が続く梅雨の時期、夏から秋にかけての台風シーズンは、気圧が変動しやすく、体に受ける影響も大きくなってきます。適切に対処して「天気痛」の症状を解消しましょう。
◆天気痛の予防■
抗めまい薬
抗めまい薬は、内耳の血行を促して状態を整え、気圧に対する過剰な反応を抑えることができます。耳鳴りやめまいなどの「天気痛」の予兆を感じたときに服用すれば、諸症状を予防できます。予兆には個人差があるため”天気が悪くなるどれくらい前に、どんな症状があらわれるか”を把握しておくことで、見極めやすくなるでしょう。
漢方薬
漢方薬でも「天気痛」の緩和が期待できます。内耳のむくみを取り、めまいを抑える「五苓散」や、自律神経を整える「抑肝散(よくかんさん)」などが知られています。いずれも服用する際は、必ず医師や薬剤師に相談の上、症状・体質にあわせて適切に服用してください。
「天気痛」が起こりにくい体質改善方法
「天気痛」と深く関わる自律神経を整えるため、規則正しい生活を心がけましょう。特に重要なのは、睡眠と食事です。まず、早寝早起きを心がける、もしくは睡眠の質を上げることが大切です。寝る1時間前に部屋の照明を少し落とし、スマートフォンの使用を控えることで睡眠の質が上がります。
起床後は日光を10分ほど浴び、自律神経を整えましょう。 次に、食事は1日3食摂るようにしましょう。中でも朝食は、自律神経を整えるために重要です。「天気痛」対策におすすめの栄養素(ビタミンB群、亜鉛、マグネシウム、鉄など)が含まれる食材を意識して摂取し、「天気痛」に負けない体質をつくりましょう。
<3>寒暖差疲労とは
気圧だけでなく、温度や湿度の変化も気象病の大きな要因です。気温の寒暖差が大きいことにより、自律神経の働きが乱れ、体が疲れることを「寒暖差疲労」といいます。コロナ禍以降に増えたリモートワークや、外出の減少などによって自律神経が乱れ「寒暖差疲労」が起きやすくなるとされています。
◆寒暖差疲労の原因と症状◆
私達は36℃前後から高くても37℃前半で体温を一定にすることにより、身体の機能を正常に保っています。気温の変化に伴い、体は体温を一定に保つため自律神経を働かせて皮膚の血管を流れる血液量を調整したり、筋肉で熱を生み出したり、発汗して体温を下げたりします。例えば、クーラーの効いた室内と暑い屋外を行き来するような、寒暖差の大きい環境が続くと、気温差に対応するために、自律神経が休む暇なく働きすぎてしまい、必要以上のエネルギーを消費します。その結果、自律神経が乱れ、血行が悪くなったり、様々な不調が現れ、寒暖差疲労を発症する要因となります。
寒暖差疲労は、体の冷えやだるさ、肩こりなど体の不調につながり、前日との気温差や、1日の最高気温と最低気温の差が7度以上あるときに起こりやすくなると考えられています。
気温差が大きいと自律神経が過剰に働き、大きなエネルギーを消耗して疲労が蓄積し、肩こりや頭痛、めまい、倦怠感(けんたいかん)、便秘、下痢(げり)、不眠などの様々な心身の不調をもたらします。慢性化すると、わずかな気温差でも不調を感じやすくなります。
◆寒暖差疲労チェック◆
寒暖差疲労には、疲労、肩こり、冷え、イライラなど様々な症状があります。しかし、ご自身の症状が寒暖差疲労なのか判断が難しいと思いますので、以下10項目のチェックシートを見ながら、寒暖差疲労を起こしやすい体質かどうかチェックしてみましょう。
10項目中4項目以上に当てはまる人は寒暖差疲労に注意が必要です。
□暑さも寒さも苦手
□エアコン(冷房、暖房)が苦手
□周りの人が暑いのに自分だけ寒い・長袖が常に手放せない
□顔がほてりやすい・全身がほてりやすい
□温度差が大きいと頭痛・肩こり・めまい・だるさ・関節痛・喘息・下痢などの様々な症状がでる
□熱中症になったことがある・近い状態になったことがある
□季節の変わり目に体調不良になる
□冷え症がある
□温度が一定の環境にいる時間が長い(オフィス・自宅で一日中エアコンをつけている)
□代謝が悪い・体がむくみやすい
チェック 1~3個 → 軽症
チェック 4~6個 → 中症
チェック 7個以上 → 重症
◆予防と対策◆
寒暖差疲労をケアするためには乱れた自律神経を整えて、日常生活に適度な寒暖のリズムを作り、自律神経をトレーニングすることが大切です。例えば、気温の高い昼は換気で外気を取り入れることで身体を冷やす、逆に気温の低い夜は温かい飲み物を飲むことで身体を温めるなどして、1日の中で意識的に寒暖差をつけることが自律神経のトレーニングになります。この際、急激に身体を冷やしたり温めたりすると逆効果になるので注意しましょう。
自律神経を整える方法
1.身体の局所(筋肉や内臓)を温める
2.散歩などの運動をする
3.首肩の筋肉をストレッチする
4.身体を温める食べ物を多くとる
5.規則正しい生活(適度な睡眠と朝に太陽の光を浴びる)
6.38~41度の湯に首までつかり体の芯まで温め、自律神経が集中している首を温める
7.耳をつまんで前後に回す(自律神経は耳の周りにも集中している)
<4>気象病で参考になるサイト・アプリ
「天気痛予報」について
気象情報を提供している株式会社ウェザーニューズのサイト「ウェザーニュース」(※著者注:会社名ではニューズと濁りますが、サイトはニュースと濁点がないのが正解です)では、紫外線予報や熱中症情報と同じ様な専門チャンネルとして、気圧や気温など、気象状況の変化から頭痛や関節痛が出やすいタイミングを予想する「天気痛予報」を毎日配信しています。天気痛の症状を持たれている方は、ぜひ参考にしてみてください。
気象病対策アプリ「頭痛ーる」
気象病であることを診断するのは医師でもなかなか難しいため、患者自身が日記などで天候と痛みなどの症状を記録することが重要となっています。スマホアプリである「頭痛ーる」は、気圧の変化による体調不良が起こりそうな時間帯の確認や、痛み・服薬記録ができる気象予報士が開発した気象病対策アプリです。
あとがき
頭痛やめまい、肩コリなど気象病かと思われる症状でも、実は心臓病や肝臓病など重大な内臓疾患であったり、クモ膜下出血や脳腫瘍など脳の異変を知らせたりするケースの可能性もあります。症状がどうしても改善しないという場合は、産業医に相談してみることをおすすめします。産業医 関谷剛