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産業医 関谷 剛 メッセージ

多様化する職場のハラスメント

統括産業医の関谷です。
グローバル化が進み、世界の情報がスマホで簡単に見られる様になったこの時代、社会生活で求められるキーワードは多様性(ダイバーシティ)ではないでしょうか。オックスフォード英語辞典によると、多様性(diversity)は、「互いに非常に異なる多くの人や物の集まり」と定義されています。社会的な文脈で多様性という言葉に触れるときには、LGBTや移民、障害を持つ人や女性といったマイノリティの人たちに関することが含まれます。
ビジネスで考えると、女性の活躍推進や外国人雇用の促進、経験豊富な高齢者の採用という属性だけでなく、時短勤務や在宅勤務などの働き方制度の整備や、妊娠・出産・子育てしやすい職場環境や制度づくりなど、「働き方」にも多様性が出てきたことで、新しいハラスメントが生じてきており、各企業でもその対応が求められてきています。
2020年6月に「改正 労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)」が施行され、企業に対する職場のパワーハラスメント防止措置が義務化されました。中小企業については努力義務となっていましたが、2022年4月1日からは中小企業の事業主にもパワーハラスメント防止措置が義務化されました。
厚生労働省では、12月を「職場のハラスメント撲滅月間」と定め、ハラスメントのない職場環境づくりを進めるため、集中的な広報・啓発を実施しています。多様化する職場でのハラスメントについて、この時期に勉強してみて下さい。

【1】パワハラの定義

職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの全ての要素を満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
(1)「優越的な関係を背景とした」言動とは
業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者とされる者(以下「行為者」という。)に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性(事柄が起こる確実性)が高い関係を背景として行われるものを指します。
(2)「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは
社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します。
この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況(※)、行為者の関係性等)を総合的に考慮することが適当です。
※ 「属性」・・・・・(例)経験年数や年齢、障害がある、外国人である等
「心身の状況」・・(例)精神的又は身体的な状況や疾患の有無等
③「就業環境が害される」とは
当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当です。

【2】新しいハラスメント

2019年6月5日に労働施策総合推進法が改正され、いわゆる「パワハラ防止法」が成立した背景には、過去10数年の間にパワーハラスメントの件数が年々増加し、大きな社会問題になった事実がありました。
多様性のある社会生活やライフスタイルの変化に伴い、労働環境におけるハラスメントの被害範囲が広がってきています。職場内での上司や同僚によるパワーハラスメントやセクシャルハラスメント以外に、職場に入る前の就活学生に対しての「就活セクハラ」、顧客からの社会通念上不相当な要求を伴うクレームや苦情を「カスタマーハラスメント」と捉えるようになりました。そして、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法により、雇用管理上の措置を講じることが既に義務付けられるようになっています。

■就活セクハラ■
学生の就職活動中、面接で人事担当者が女性にだけ「付き合っている男性はいるか」、「結婚や出産後も働き続けるか」と質問する。制服の貸与などを理由に「スリーサイズは?」と質問される。志望の会社に勤めている大学の先輩を訪ねたところ、「詳しい話をしたいから、一度飲みに行こう。」などとしつこく誘われる。このように、内定に響くのではないかという恐怖心を利用して、就活中の学生に対して悪質なセクハラが行われています。
●厚生労働省で就活セクハラ対策を強化
実際、2017年度から2019年度に就職活動またはインターンシップを経験した男女の中で、就活セクハラを受けたと回答した方の割合は約4人に1人(25.5%)となっています(令和3年4月 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」)。これらの実態を受けて、2022年3月に厚生労働省が就活セクハラ対策を強化することを発表しました。
●事業所での対策方法
就職活動中の学生に対するセクシャルハラスメント等については、正式な採用活動のみならず、リクルーターと会う・インターンシップに参加・教育実習・OB・OG訪問等の場においても問題化しています。
企業としての責任を自覚し、人事担当部門以外の全社員に対しても就活学生と接触する際にルールの周知徹底を図り、未然の防止に努めましょう。
1:学生と接する際のルールをあらかじめ定める
2:自社社員以外(学生、フリーランスetc)に対してもハラスメントは行ってはならない旨を研修する
3:ハラスメントを行った場合は厳正な対応を行うこと
4:採用活動を企業として適切に管理する
5:就活生の相談窓口を設置し、対応する

■カスタマーハラスメント■
2020年6月の「パワハラ防止法」では顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為をカスタマーハラスメントとして捉えるようになり、事業主は相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましく、また被害を防止するための取組を行うことを求められるようになりました。
カスタマーハラスメントに該当する事例
顧客の行為には様々なパターンがあり、それぞれの状況に応じた柔軟な対応を想定しておくことが望まれます。状況によっては迅速な対応が求められるケースがあることから、あらかじめ様々な想定をしておくとスムーズに対応することが可能です。
(1)時間拘束型
長時間にわたり、顧客が従業員を拘束する。居座りをする、長時間電話を続ける。
(2)リピート型
理不尽な要望について、繰り返し電話で問い合わせをする、または面会を求めてくる。
(3)暴言型
大きな怒鳴り声をあげる。「馬鹿」といった侮辱的発言、人格の否定や名誉を毀損する発言をする。
(4)暴力型
殴る、蹴る、たたく、物を投げつける、わざとぶつかってくる等の行為を行う。
(5)威嚇・脅迫型
「殺されたいのか」といった脅迫的な発言をする。または「SNSにあげる、口コミで悪く評価する」等のブランドイメージを下げるような脅しをかける。
(6)権威型
正当な理由なく、権威を振りかざし要求を通そうとする。お断りをしても執拗に特別扱いを要求する。
(8)店舗外拘束型
クレームの詳細が分からない状態で、職場外である顧客の自宅や特定の喫茶店などに呼びつける。
(9)SNS/インターネット上での誹謗中傷型
インターネット上に名誉を毀損する、またプライバシーを侵害する情報を掲載する。
(10)セクシャルハラスメント型
従業員の身体に触る、待ち伏せする、つきまとう等の性的な行動、食事やデートに執拗に誘う、性的な冗談といった性的な内容の発言を行う。

【3】職場におけるハラスメント防止への対策

■職場のパワハラ防止に関して■
厚生労働省の「パワーハラスメント防止のための指針」には、事業主が講じるべき措置の内容として以下の4つが定められています。

<1>事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
1.職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
2.行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
<2>相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3.相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
4.相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
<3>職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応
5.事実関係を迅速かつ正確に確認すること
6.速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと(注1)
7.事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと(注1)
8.再発防止に向けた措置を講ずること(注2)
注1:事実確認ができた場合     注2:事実確認ができなかった場合も同様
<4>そのほか併せて講ずべき措置
9.相談者・行為者等のプライバシー(注3)を保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
10.相談したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
注3:性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含む。

■カスタマーハラスメント対策の基本的な枠組み■
企業がカスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みを構築するため、カスタマーハラスメントを想定した事前の準備、実際に起こった際の対応として、以下の取組を実施するとよいでしょう。

●カスタマーハラスメントを想定した事前の準備
1:事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員の周知・啓発
2:従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
3:対応方法、手順の策定
4:社内対応ルールの従業員等への教育・研修

●カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応
5:事実関係の正確な確認と事案への対応
6:従業員への配慮の処置
7:再発防止のための取組
8:1〜7までの措置と併せて講ずるべき措置

【4】職場のハラスメントで参考になるサイト

職場のハラスメントについて詳しい「あかるい職場応援団」
職場のパワーハラスメント問題の予防・解決に向け、問題に関する様々な情報発信を行なっていくため、厚生労働省委託事業として、2012年10月に開設されたサイト「あかるい職場応援団」では、ハラスメントの定義や基本情報などが詳しく紹介されています。

職場におけるハラスメント防止に詳しい厚生労働省のサイト
新しく制定されたパワハラ防止法や、雇用管理上必要な措置についての資料が厚生労働省のサイトからダウンロード出来ます。職場でのパワーハラスメントやセクシャルハラスメント以外にもカスタマーハラスメントについても対策リーフレットがダウンロード出来る様になっています。

あとがき

パワハラに関して社内だけで対応や対策を行うのは難しい場合には、弁護士や社労士に相談するのがお勧めです。セクハラ等での身体面に関係するデリケートな問題であれば、産業医に相談するようにしましょう。
産業医 関谷剛

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