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産業医 関谷 剛 メッセージ

依存症からの脱却~ニコチンやお酒など物質への依存を防ぐ~

統括産業医の関谷です。
収穫の秋となる10月は、美味しい海山の幸をあてにして、お酒が美味しくなる季節です。しかし、仕事にストレスを感じ、連日大量のお酒を飲み過ぎて、翌日の勤務に影響を及ぼしている職場の同僚を見かけたりしていませんか?
対人関係の構築や業務遂行でのトラブルに、SNSを通じての誹謗中傷など、現代は誰もが精神的な圧力にさらされてしまう社会状況があります。大きな圧力を解消する手段として、アルコールやタバコ、ギャンブル等に依存してしまい、ついにはやめたくてもやめられない状態に陥ると依存症と診断されます。
依存状態が進んでいくと、家族や職場の人との人間関係よりも、飲酒や薬物使用、ギャンブルなどを優先してしまうために、家族に嘘をついての飲酒や薬物使用、ギャンブルなどしていることを隠したりする行為は、よくある依存症の症状です。しかし、本人は病気という自覚がない(または認めない)ことが多く、家族も正しい知識がないままに、自分の家族がこんな状態で恥ずかしい、世間にバレたらどうしようという思いから、誰にも相談できず、なんとか本人の起こした問題の尻拭いをし、隠そうとしてしまいます。
依存症は病気であるため、専門の相談機関や医療機関に頼ることで解決に向かうことができる問題です。IT化が進む近年は、依存症の種類も増えてきており、ぜひこの機会に事業所で依存症について知識を学び、もし職場で依存症の症状がみられる同僚を見かけたら、適切な治療に導けるようにしてください。

1:依存症とは?

依存症とはやめたくてもやめられない状態に陥ることですが、その種類は大きく「物質への依存」と、「 プロセスへの依存」の2種類があります。どちらにも共通していることは、繰り返す、より強い刺激を求める、やめようとしてもやめられない、いつも頭から離れないなどの特徴がだんだんと出てくることです。

■物質への依存(物質系)■
アルコールや薬物といった精神に依存する物質を原因とする依存症状のことを指します。依存性のある物質の摂取を繰り返すことによって、以前と同じ量や回数では満足できなくなり、次第に使う量や回数が増えていき、使い続けなければ気が済まなくなり、自分でもコントロールできなくなってしまいます(一部の物質依存では使う量が増えないこともあります)。

■プロセスへの依存(非物質系)■
物質ではなく特定の行為や過程に必要以上に熱中し、のめりこんでしまう症状のことを指します。具体的にはパチンコをはじめとしたギャンブル、買い物、盗癖(クレプトマニア)に、現代ではネット依存やゲーム依存などもこのプロセスへの依存に入ります。

どうしてやめられないのか?
人は誰しも、不安や緊張を和らげたり、嫌なことを忘れたりするために、ある特定の行為をすることがありますが、それを繰り返しているうちに脳の回路が変化して、自分の意思ではやめられない状態(コントロール障害)になってしまうことがあります。これが、依存症という病気です。
周囲がいくら責めても、本人がいくら反省や後悔をしても、また繰り返してしまうのは脳の問題なのです。決して「 根性がない」とか「意志が弱いから」ではありません。依存症は、条件さえ揃えば、誰でもなる可能性があり、特別な人だけがなるわけではないのです。

2:物質への依存

依存症は従来、アルコール・薬物等の物質依存症に限られていました。その後、ギャンブル依存症(ギャンブル障害)が、正式に依存と認められるようになり、次に国際疾病分類第11版(ICD-11)に、ゲーム障害が収載されました。
日本では薬物・アルコール・ギャンブルは三大依存症と呼ばれ、その患者数は数百万人いると言われています。患者数が多いのはアルコール依存症ですが、健康リスクに大きく影響を及ぼす危険があるのは薬物依存です。前述した通り、依存症には大きく分けてギャンブルや買い物にネットなどのプロセスへの依存(非物質系)と物質系がありますが、社会人経験の長い中高年層が陥りやすい物質系の依存症について、言及していきたいと思います。

■アルコール依存症■
世界保健機関(WHO)によると、アルコールは200以上もの病気の原因になっているとのことです。アルコール依存症の死亡率は非常に高く、原因として他の依存と同様に自殺も大きな地位を占めています。依存に関係する社会問題は、暴言、暴力、失職、経済的問題、犯罪など枚挙にいとまのないほどです。また、すべての精神疾患の中で最も治療ギャップが大きい、すなわち治療の必要な人が、最も治療を受けていない疾患としてよく知られています。

アルコール依存症の依存行動と症状
アルコール依存症の場合、依存行動・症状の例としては以下のようなものがあります。
・何をしていてもお酒のことが頭から離れない
・飲酒量が以前に比べて大幅に増えた
・お酒がきれてくると手が振るえる、飲みたくなる
・飲酒量を減らせない
・朝から飲み続けることがある
増加する高齢者のアルコール依存症
高齢者では、若年者と比べて体内の水分の占める割合が低く、同量の飲酒でアルコール血中濃度が増加しやすいため、少量の飲酒でも影響を受けやすいです。また、血中濃度が同じでも、中枢神経のアルコール感受性が増加することにより、アルコールの鎮静作用や運動系への作用が強調されます。これらの要因により、高齢者では、比較的少量の飲酒であっても、酩酊、転倒などの問題を起こしやすくなります。全国にある11の専門治療施設を対象とした調査では、アルコール専門病院の受診者の中での高齢者の割合が増加していることが示されています。

■薬物依存■
かつて「薬物中毒」という用語が薬物依存症と同義の言葉として用いられた時代がありましたが、いまは用いられなくなっています。その理由は、正しくないからです。「中毒」というのは、文字通り「毒(=薬物)が体の中にある状態」を指していますが、この状態は「解毒(毒を体外に出す)」すれば、薬物による心身に対する弊害は消失し、治療はおしまいとなるはずです。
ところが、薬物依存症はそうはいきません。たとえば、薬物をやめていても、かつて薬物をよく使用していた場所を訪れたり、一緒に薬物を使用した仲間と出会ったり、あるいは覚せい剤の粉末を溶かすために携行していた500mlのミネラルウォーターのペットボトルを目にしただけで、薬物への欲求が蘇ることがあります。
たとえ欲求を自覚しなくとも、かつて薬物を使ったときに体験した様々な心身の変化(心拍数の上昇、発汗、落ち着きを失う)が出現します。あるいは、暇な時間に退屈な気分になったときに、ふと「薬物を使いたいなぁ」と考えてしまったり、「しかし、我慢しなきゃ」などと葛藤したりします。つまり、薬物依存症とは、「薬物が体内に存在すること」が問題ではなく、薬物を繰り返し使ったことで、人の心身に何らかの変化が生じた状態を意味しています。

市販薬も依存症の原因に
薬物依存症になるのは違法薬物だけではありません。市販されている薬で依存症になる人も近年増加しています。せき止め薬・かぜ薬・鎮痛薬・頭痛薬といった市販薬には、カフェインを多く含むものや、覚醒剤やヘロインに似た成分を少し含むものがあります。大量にのむと「元気になれる」「気持ちが落ちつく」と感じることがあり、繰り返し使っていると依存しやすくなります。

3:ニコチン依存からの脱却

現在習慣的に喫煙している人は、厚生労働省の令和4年(2022)「国民健康・栄養調査」によると、この10年間でみると男女とも有意に減少していますが14.8%(男性24.8%、女性6.2%)と、諸外国と比べると未だ高い状況にあり、約1400万人が喫煙していると推定されています。
この調査によれば、現在習慣的に喫煙している男性の4人に1人、女性の3人に1人が「タバコをやめたい」と考え、「本数を減らしたい」を含むと、このままの喫煙習慣を続けたくないと考えている人は6割を超えています。また、喫煙者の半数以上が4〜5回禁煙を試みたことがあります。
喫煙者の多くは喫煙を、趣味・嗜好ととらえているようです。しかし、やめられない喫煙は「ニコチン依存症」という「病気」であることがわかっており、典型的な物質への依存であり、薬物依存の一種です。

■ニコチン依存症■
タバコをやめられない「ニコチン依存症」には、身体的依存と心理的依存という2つの側面があります。
身体的依存
急速に肺から吸収され数秒で脳内に達するニコチンは、脳内で本来働く神経伝達物質の代わりに刺激を与え、快感や報酬感を与えます。これを繰り返すうちに、ニコチンがないとイライラや落ち着かないなどのニコチン切れ症状(禁断症状)があらわれるようになり、これを身体的依存と呼びます。
喫煙者はタバコを吸うと頭がすっきりする、気分が落ち着く、リラックスするなどと感じ、一時的に禁断症状が解消されますが、吸い終わってしばらくするとニコチン切れに伴い禁断症状が出現し、再びタバコが欲しくなります。
心理的依存
身体的依存のほか、心理的依存が生じてきます。タバコを吸ってよかったという記憶や身についたクセ、習慣などを心理的依存といいます。

■全身に及ぶタバコの害■
全世界で年間500万人以上が喫煙に関連する病気で死亡しています。 日本でも11万人以上と推定されており、 ここ20年で約2倍に増加したことになります。非喫煙者より喫煙者の方がリスクが高い疾病には下記の様なものが上げられます。
がん
呼吸器系(肺がん、喉頭がん)、消化器系(口腔・咽頭がん、食道がん、胃がん、 肝臓がん、膵臓がん)、泌尿器系(腎盂がん、尿管がん、膀胱がん)、子宮頸部のがん
循環器疾患
虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)・脳卒中・血管病(閉塞性動脈硬化症、バージャー病、 大動脈瘤)にかかりやすく、悪化しやすくなる
呼吸器疾患
COPD(慢性閉塞性肺疾患=肺気腫、慢性気管支炎など)、喘息などの呼吸器系の疾患を引き起こします。COPDは発症原因の90%以上が喫煙とされ「タバコ病」として注目されるようになってきました。

■医療機関での禁煙治療■
禁煙しようと思っても、自分一人ではなかなかやめられない、それが現実ではないでしょうか。喫煙をやめられない人は医療機関で禁煙治療を受けることができます。
禁煙治療は2006年4月から一定の要件を満たせば保険診療が受けられるようになりました。これまで禁煙に成功しなかった人も医療機関を受診し、ニコチン依存症を治療しましょう。
もし事業所の同僚や部下が依存症の症状が垣間見えたら、国や自治体が設立させた専門の機関に相談に行くことをお勧めします。また、依存症の種類に応じて診察してくれる医療機関に関しても、保健所や精神保健福祉センターなどで調べることが出来るようになっています。

加熱式タバコもニコチン依存症の原因に
たばこ葉を燃焼させるのではなく、専用機器等を用いて加熱することで、蒸気(たばこベイパー)を発生させて吸引する加熱式たばこは、厚生労働省の国民健康・栄養調査(令和元年)によると、喫煙者の2割以上が使用しています。
たばこの葉などを燃焼させないため、ご自身や周りの人への健康影響や臭いなどが紙巻たばこより少ないという期待から受け入れられやすいかもしれませんが、加熱した時に出る煙霧には、発がん性物質を含む多くの種類の有害化学物質が含まれており、ニコチンも吸入しています。よって、加熱式たばこの使用では健康リスクの低減は期待出来ず、ニコチン依存症にもなる可能性はあります。

4:依存症で参考になるサイト

厚生労働省HP 依存症対策ページ
厚生労働省のホームページには「依存症対策」というページがあります。アルコール依存症や薬物依存症など個別の依存症に関しては、詳しいサイトを紹介しています。国や自治体が設けている依存症の相談機関が調べられるサイトや、専門医療機関検索ツールの紹介もあり、依存症対策を推進するための研修や依存症に関する情報提供を実施しています。

依存症対策全国センター
厚生労働省は平成29年4月より、依存症対策全国拠点機関設置運営事業および依存症対策総合支援事業の二つの事業を開始しました。その一環で、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター内に依存症対策全国センターが設置され、アルコール健康障害、薬物依存症、ギャンブル等依存症、ゲーム依存症の依存症全国拠点機関(依存症対策全国センター)に指定され、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターと連携し、事業を実施しています。

あとがき

依存症は段々と、ゆっくり進行する病気です。それゆえ、気づかぬうちに依存症になっているケースも多くあり、本人は気がつきにくい疾病ですから、普段の生活の中で「ちょっとおかしいな?」と周囲の人が感じたら、産業医に相談してみてください。(産業医 関谷剛)

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