五月病の予防策~自律神経を整える生活習慣~

統括産業医の関谷です。
桜の季節が過ぎ、4月から新年度がスタートしました。社会人であれば4月は新しい環境や役割を担うことが多くなり、期待と緊張が入り混じる時期ではないでしょうか。
実のところ、私たちが「やる気」に満ちて頑張っているこの4月こそが、翌月の「五月病」を防ぐための最も重要な期間です。新たな生活環境での張り詰めていた緊張感にも、4月の間は耐えられていました。そうして蓄積した心身の疲労が、連休明けに一気に噴出するのが五月病の正体です。
今月は、医学的な視点から五月病のメカニズムを紐解き、事業所内で五月病の発生を防ぎ、健やかに新年度を乗り切るための予防策をお伝えします。
[1]五月病の正体
■医学的な視点からの理解■
「五月病」は正式な病名ではなく、医学的には主に「適応障害」や「軽症うつ」の状態を指し、精神疾患に該当します。厚生労働省の患者調査では、2005年時点では精神疾患の総患者数は303万人であったのが、2014年には392万人、2023年には603万人と患者数が増加しており、事業所としても家庭や学校とも協力しながら、五月病の症状を生み出さない環境を整えていく必要があるでしょう。
五月病の原因とされているのが自律神経の乱れです。自律神経とは、自分で無意識のうちに、身体の機能を自動的に調整する働きをする神経のことであり、「交感神経」と「副交感神経」の2つに分けられます。2つの神経の働きはお互いに正反対ですが、両者がバランス良く働くことで、体の器官が正しく機能し、私たちは健康でいられます。
精神疾患に関する新規相談や不調者発生は、4月の環境変化(入社・異動・昇進)に伴う緊張が、ゴールデンウィークの長期休暇で途切れることにより、連休明けの5月に不調が表面化して、相談件数が年間で最も多くなるとされています。5月に顕在化した不調が長引くケースや、梅雨時期の気象ストレスが加わることで、6月も高い水準を維持し、近年ではこれを「六月病」と呼ぶ人もいます。
[2]自律神経が乱れる原因
春は一年の中で最も自律神経が乱れやすい季節です。これには2つの大きな理由があります。
■なぜ春は疲れるのか■
春は特有の三寒四温という寒さと温かさが繰り返し現れ、寒暖差がある時期です。また、低気圧と高気圧が頻繁に入れ替わる気圧の変動も体調悪化に拍車をかけます。
4月初旬から5月初旬にかけては、朝晩の冷え込みと日中の気温の高さの違いが大きく、激しい気温差(寒暖差)が自律神経を乱すことで、疲労感、不眠、やる気低下を引き起こします。
1日の気温差が大きいと、体温調節をする自律神経が過剰に働き、エネルギーを消費して疲労やだるさを招き、この寒暖差疲労は、五月病を引き起こす要因の一つです。
■社会的ストレスによる負担■
長く続いた学生生活を終えて、社会人として4月から勤務を開始する新入社員にとっては、春から職場で新たな生活がスタートします。新生活は、学生時代とは身だしなみから言葉遣いまで違いは大きく、慣れないことも多く、知らず知らずのうちにストレスがたまるものです。また、仕事の内容や環境が自分に合っていないために、「適応障害」を起こしていることもあります。
こうして1カ月が過ぎ5月になる頃に、身体のだるさ、疲れやすさ、意欲がわかない、物事を悲観的に考えてしまう、よく眠れない、食欲がないなどの心身の症状が現れることがあります。
五月病は新入社員だけではなく、職場内での異動や、配置転換による転勤という社会環境の変化がストレスになって、中堅層や管理職にも増えていることが分かっています。4月は新しい環境に対しての緊張感があったのが、ゴールデンウィークの長期休暇を挟むことで、5月には緊張が緩み、無気力になったり、不安感が強くなってしまい、五月病を発症するケースもあります。
[3]今日からできる予防策
自律神経の乱れを防ぐには、「活動のスイッチ(交感神経)」と「休息のスイッチ(副交感神経)」の切り替えをスムーズにすることが不可欠です。そのための習慣を、時間軸に沿った2つのカテゴリーに整理しました。
■朝と日中の「光と食」■
自律神経を整える第一歩は、脳内の神経伝達物質で幸せホルモンとも称される「セロトニン」を活性化させることです。セロトニンは心の安定を保つだけでなく、夜の良質な睡眠に欠かせない「メラトニン」の原料にもなります。
3食を規則的にとり、食事バランスに注意したうえで、睡眠、休養を十分にとるように心がけてください。寝る直前まで仕事のメールを見ない、といった小さな休息が自律神経を整え、胃腸を落ち着かせます。
*セロトニンの元となる食材を朝食に
セロトニンの原料となるアミノ酸「トリプトファン」を摂取しましょう。トリプトファンが含まれているバナナ、大豆製品(納豆・豆腐)、乳製品などを朝食に取り入れることで、日中の意欲を高め、メンタル不調を予防する効果があります。
■夕方と夜の「動と静」■
日中に高ぶった交感神経を鎮め、スムーズに副交感神経へバトンタッチするための習慣です。
夕方の軽いウォーキングや、一定のリズムで行うスクワットなどは、ストレスで疲弊した脳をリフレッシュさせます。日本心身医学会の知見においても、リズムを伴う運動はセロトニン神経を刺激し、自律神経のバランスを回復させる効果があることが認められています。
*入浴とデジタルデトックスによる「静」のケア
就寝の90分〜2時間前までに38〜40℃程度のぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、副交感神経が優位になります。また、寝る直前のスマートフォンの使用(ブルーライト)は、脳を「昼間」だと錯覚させ、自律神経を大きく乱しますので、就寝前には使用を控えるようにしましょう。睡眠前のリラクゼーションがメンタルヘルス維持に重要であり、質の高い睡眠を確保し、しっかりとした睡眠時間の確保に努めましょう。
[4]五月病の予防策で参考になるサイト
厚生労働省 働く人のメンタルヘルスサイト「こころの耳」若年労働者へのメンタルヘルス対策
「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト『こころの耳』」(以下「サイト」という。)は、令和5年度の厚生労働省委託事業(ポータルサイト運営)として一般社団法人日本産業カウンセラー協会が受託して開設されたものです。当サイトの目的は、職場のメンタルヘルス対策(自殺予防対策を含む)及び過重労働対策について、事業者、労働者、家族等への的確な情報提供の基盤を整備することで、精神疾患などのストレスによって引き起こされる病気に関して、詳しく記載されています。
全国健康保険協会 季節の健康情報「五月病」
全国健康保険協会(協会けんぽ)は、中小企業を中心に全国約260万事業所にお勤めの方とそのご家族、約4,000万人の方が加入する日本最大の医療保険者として、「加入者の健康増進を図るとともに、良質かつ効率的な医療が享受できるようにし、もって加入者及び事業主の皆様の利益の実現を図る」との協会の基本理念で活動しています。サイトでは「健康づくりコラム」として毎月、働く人に参考になる健康に関する情報を発信しています。
YouTubeチャンネル「関谷剛の産業医こぼれ話」 2026年4月『五月病の予防策』
医師・産業医の関谷剛先生が、この通信と同じテーマについて解説した動画を毎月公開しております。文章だけでは伝わりにくい、病気予防のポイントや産業医としての経験談などを自らの言葉で説明しています。YouTubeチャンネルで御覧頂けますから、事業所でもご家庭でもぜひ御覧下さい。
あとがき
2週間以上、気分の落ち込みや食欲不振が続く場合は、単なる疲れと放置せず、専門医への相談を検討してください。五月病は放っておくと、本格的なうつ病に進んでしまうこともあります。気になることがあればいつでも産業医面談を活用してください。(産業医 関谷剛)



















