ワクチンとは〜インフルエンザなどの感染症予防策〜
統括産業医の関谷です。
年末年始休暇に、成人の日の3連休と、正月は里帰りなどで一年の中でも国内での移動が最も盛んになり、集中する時期です。さらに近年では、東アジア全域で通用している旧正月(春節)の休みが今年は1月下旬となるため、アジア各国から日本に訪れる旅行団が下旬にはピークを迎えます。これだけ人の移動が多くなると、自ずとインフルエンザなどの感染症が流行することになります。
感染症に対しては、予防策としてワクチン接種を行うと効果があります。ワクチンのなかった1950年以前のわが国では、年間10万人の方が麻しん(はしか)、百日咳、ジフテリア等にかかり、亡くなっていました。一方、ワクチン接種が広く浸透した今日では、これらの感染症の大きな流行は見られなくなってきました。
しかし、このワクチン接種について、毎年接種していても他人に効果を説明できるほど詳しく理解していない人が多いようです。SNS等の科学的根拠のない情報に惑わされて誤解を生んでしまっている部分もあるようなので、簡単にワクチンの役割や種類について説明し、事業所内での感染症予防に役立てて貰えればと考えています。
1:ワクチンの役割とは
ワクチン接種を行うのには、大きく分けて二つの役割があります。一つ目の役割としては、ワクチンを接種した方が病気にかかることを予防します。また、病気にかかったとしても、ワクチンを接種していた方は重い症状になることを防げる場合があります。二つ目の役割としては、感染している本人以外のまわりの人に感染させてしまうことで病気がまん延してしまうのを防ぐことを目的としています。
■自分が感染しないための予防■
ワクチンは処方薬ではありません。病気になってから、慌てて注射しても、多くのケースでは間に合わないです。ワクチンは、細菌やウイルス等の病原体の感染を予防するために、身体に免疫をつけて、もし感染しても病気にかからないようにする、あるいはかかっても症状を軽くすることを目的に、予防接種するものです。
■家族や会社の同僚への感染を防ぐ手段■
ワクチンが必要となる感染症というのは、多くがヒトからヒトへ感染していく病気です。そのため、自分が感染しなければ、まわりの人に移すこともなくなり、接触頻度の多い家族や事業所内の同僚への感染を防ぐことにもなり、ワクチン接種により感染拡大の予防になります。
2:ワクチンの種類
ワクチンは、「生ワクチン」、「不活化ワクチン」、「トキソイド」、「組換えタンパクワクチン」に、「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」等にわけられます。「トキソイド」や「組換えタンパクワクチン」は、広義では「不活化ワクチン」に含まれます。また、ワクチンの種類ごとに製造方法や体の中で働くメカニズムが異なり、それぞれ特徴があります。
■生ワクチン■
病原性を弱めた病原体からできています。接種すると、その病気に自然にかかった場合とほぼ同じ免疫力がつくことが期待できます。一方で、副反応として、軽度で済むことが多いですが、その病気にかかったような症状が出ることがあります。代表的なワクチンとしては、MRワクチン(M:麻しん、R:風しん)、水痘(みずぼうそう)ワクチン、BCGワクチン(結核)、おたふくかぜワクチンなどがあります。体調が悪いときには打たない方が良いと言われています。
■不活化ワクチン■
感染力をなくした病原体や、病原体を構成するタンパク質からできています。1回接種しただけでは必要な免疫を獲得・維持できないため、一般に複数回の接種が必要です。代表的なワクチンとしては、日本脳炎ワクチン、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン、肺炎球菌ワクチンなどがあります。
■トキソイド■
細菌の毒素(トキシン)を取り出し、無毒化したものです。複数回の接種で免疫がつきます。
■混合ワクチン■
混合ワクチンは、複数のワクチンがはじめから1本の注射液に混合して含まれているものです。 日本では百日せき・ジフテリア・破傷風・ポリオの4種混合ワクチン、麻しん・風しんのMRワクチンなどが混合ワクチンとして接種されています。
その他、ウイルスのタンパク質をつくるもとになる遺伝情報(設計図)の一部を使い、新型コロナウイルス感染症のワクチンで、世界で初めて実用化された「mRNAワクチン」など、新しいタイプのワクチンも開発されています。
3:インフルエンザワクチンとは
インフルエンザワクチンは、4タイプのインフルエンザを予防でき、病気の重症化、流行、危険な合併症のリスクを減らします。世界保健機関(WHO)は、以前にインフルエンザにかかったことがある人も含め、すべての年齢の人々が毎年インフルエンザワクチンを接種することを推奨しています。
■インフルエンザワクチンの種類■
インフルエンザウイルスは大きく分けて、A型、B型、C型の3種類があります。このうち大きな流行の原因となるのはA型とB型です。
近年、国内で流行しているインフルエンザウイルスは、A(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型(香港型)とB型(山形系統とビクトリア系統)の4種類です。これらの4種類のインフルエンザウイルスは、毎年世界中で流行を繰り返していますが、流行するウイルス型や亜型、系統の割合は、国や地域で、また、その年ごとにも異なっています。
■予防接種が毎年必要な理由■
インフルエンザは毎年流行する種類が変わってくるため、ワクチンは毎年つくりかえられます。世界中の国々で流行したインフルエンザウイルスの株から、次のシーズンにどんな株が流行するかが予測され、夏ごろまでにワクチンがつくられます。
ワクチン接種後、約2週間してからウイルスと闘う「抗体」ができ、最も効果が高くなるのは、予防接種をしてから1~2か月後です。インフルエンザのピークがおおむね1月から2月ごろになりますので、11月末から12月の中旬ごろまでに計画的に予防接種を受けましょう。
新たなインフルエンザワクチン「フルミスト」はスプレーを鼻の中に入れ、直接吹きつけるタイプの、毒性の弱いウイルスを使った生ワクチンで、2024年10月から接種できるようになりました。
従来の注射型ワクチンとは違い、痛みをほとんど感じることなくワクチン接種できるのが大きな特徴です。 米国では2003年から、欧州では2011年から使用されており、日本でも厚生労働省から2023年に承認を受け、2024年から2歳以上19歳未満なら接種対象者として接種出来るようになりました。
4:ワクチンで参考になるサイト
厚生労働省HP 予防接種・ワクチン情報
厚生労働省のホームページで感染症の項目に「予防接種・ワクチン情報」があります。このページでは予防接種がある病気の種類やワクチンごとの接種年齢について詳しく記載があります。インフルエンザやコロナのワクチンに関しての情報も毎年更新されて最新の情報が入手出来ます。
公益財団法人東京都医師会 予防接種のお話し
東京都医師会のホームページでは「都民のみなさまへ」という項目で、地域医療に関係したテーマを設けて、実施状況を詳しく書いています。「予防接種のお話し」というテーマでは、乳幼児と高齢者では異なる予防接種の内容やスケジュールについて詳しく書かれてあります。
東京都感染症情報センター インフルエンザの流行状況
各都道府県では保健所からの情報を元にして、週ごとのインフルエンザ感染者数を公表しています。東京では東京都感染症情報センターが市区町村のデータをグラフ化して、感染者数の増減が分かりやすくまとめられています。2024-2025年シーズンは、12月22日(第51週)の感染者数が過去5年間で最も多くなっており、警報基準を超えていると発表されました。1月以降も毎週の感染者数は発表されていますから、最新情報をリンク先で確認するようにしてください。
NHK 『きょうの健康』インフルエンザの型
NHK(日本放送協会)のホームページでは、テレビ放映された健康に関する番組をホームページでも公開しています。インフルエンザの型やワクチンの種類などを番組内で使ったイラストが掲載されていて、大変分かり易く見やすい解説がされています。
関谷剛の産業医講話 2025年1月『ワクチンとは?』
医師・産業医の関谷剛先生が、この通信と同じテーマで解説した動画を毎月公開しております。文章だけでは伝わりにくい、病気予防のポイントや産業医としての経験談などを自らの言葉で説明しています。YouTubeチャンネルで御覧頂けますから、事業所でもご家庭でもぜひ御覧下さい。
あとがき
年始休暇明け以降、インフルエンザ感染者が増えて来ると予測されます。栄養のある食事を摂ったり、肉体を鍛えて免疫力をアップすると共に、もし疑わしい症状が出たときは、早めに産業医に相談してみてください。(産業医 関谷剛)