1. HOME
  2. ブログ
  3. 産業医 関谷 剛 メッセージ
  4. 肩こり~モニターの見すぎによる症状~

HEALTH TOPICS

トピックス

産業医 関谷 剛 メッセージ

肩こり~モニターの見すぎによる症状~

統括産業医の関谷です。
夏の猛暑から9月に入ると、朝や夕方は涼しくなってきます。昼間と朝晩の1日の気温差が大きくなると、それが肩や腰への刺激となり、肩こりや腰痛に神経痛をおこす原因になります。厚生労働省が公表した「令和4年(2022) 国民生活基礎調査」では、性別にみた有訴者率の高い症状として、男性、女性ともに「腰痛」がトップで、第2位が「肩こり」でした。
職場での業務遂行から連絡手段もパソコンを使う時代になり、会社に出勤しても朝から夕方まで自分のデスクに座ったままだと、当然「肩こり」になってしまいます。
秋から冬にかけて更に寒暖差が大きくなり、秋服への衣替えでは上着を着るようになり、肩への負担が大きくなります。これからの季節は肩こりが一年で最も起こりやすい季節とされていますので、ぜひこの機会に職場の方々を交えて肩こりが職場で発生する要因について学んでみてください。

【1】肩こりとは?

腰痛と並んで日本では国民病とも呼ばれる肩こりですが、病院で診察してもらうと分かりますが「肩こり」 という病名はなく、症状のことを指します。肩がこるという症状は様々な要因があり、要因によって病名としては脛肩腕(けいけんわん)症候群、または頸肩腕(けいけんわん)障害と呼び、首こり状態によって引き起こされるさまざまな症状に対してだと頚性神経筋(けいせいしんけいきん)症候群という概念が提唱され、研究が進められています。
■肩こりの症状■
肩から首にかけては多くの筋肉が絡み合っていて、公益社団法人日本整形外科学会のホームページに肩こりの症状が紹介されており、下記の様に書かれています。
「首すじ、首のつけ根から、肩または背中にかけて張った、凝った、痛いなどの感じがし、頭痛や吐き気を伴うことがあります。肩こりに関係する筋肉はいろいろありますが、首の後ろから肩、背中にかけて張っている僧帽筋(そうぼうきん)という幅広い筋肉がその中心になります。」(図1:参照)


※図1:公益社団法人日本整形外科学会のHPより抜粋

■男女に共通する肩こりの原因■
肩こりが発症する要因は沢山有りますが、現代社会で働く男女ともに多いとされている要因は「同じ姿勢」「眼精疲労」「運動不足」「ストレス」で、肩こりの4大原因とされています。最近では、肩こりと血圧の関連も注目され、従来は低血圧の方に肩こりが多いとされていたのですが、反対に高血圧の方でも発症しています。

性差による原因
厚生労働省が実施している「国民生活基礎調査」で、令和4年(2022)以前の調査では長らく、身体の不調に関する自覚症状で女性は「肩こり」が第一位でした。女性の肩こり率は男性の2倍もあるとされ、その原因は複数有ります。
①筋肉量が少ない:少ない筋肉で重い頭を支えようとするため首や肩に負担がかかる
②身体が冷えやすい:身体が冷えると血行が悪くなり、首や肩の筋肉に溜まった疲労物質がうまく代謝されず、肩がこる
③ホルモンバランスの影響を受けやすい:女性ホルモンの変化によって自律神経の働きが乱れることがあり、自律神経には交感神経と副交感神経があります。このうち交感神経が興奮すると、首や肩・背中の筋肉が硬くなり、血行が悪くなるために肩がこるのです。そのため、月経前や更年期に肩こりを訴える女性は少なくありません。

【2】デスクワークによる肩こり

肩こりの原因には、職場でのデスクワークに大いに関連しているというのは、厚生労働省でも認識しており、平成14年(2002)には「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を発出しました。令和元年(2019)にはこのガイドラインを廃止して、パソコンなど情報機器を使って作業を行う労働者の健康を守るために、新たに「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を策定しました。
肩こりや腰痛の原因とされる「同じ姿勢」「眼精疲労」「運動不足」「ストレス」が、長時間のデスクワークと関係していることを念頭に、作業環境の改善や作業管理についての指針を示していますから、新しいガイドラインを参考に、デスクワークによる肩こりを考えてみましょう。

■情報機器作業とは■
「VDTガイドライン」で示しているVDT(Visual Display Terminals)作業から、令和元年には「情報機器作業」と名称が変更になっていますが、これは近年の技術革新による職場のIT化が大きく関係しています。つまり従来考えられていたディスプレイ、キーボード等により構成される VDT機器のみならずタブレット、スマートフォン等の携帯用情報機器を含めた情報機器が急速に普及し、これらを使用して情報機器作業を行う労働者の作業形態はより多様化しているためです。
作業者の心身の負担を軽減し、作業者が支障なく作業を行うことができるよう、情報機器作業に適した作業環境管理を行うことが、肩こりの予防につながります。

■情報機器の選択■
作業者の心身の負担を軽減し、作業者が支障なく作業を行うことができるよう、情報機器作業に適した作業環境管理を行うことが、肩こりの予防につながります。

デスクトップ型機器
①ディスプレイ
*ディスプレイは、次の要件を満たすものを用いること
a:目的とする情報機器作業を負担なく遂行できる画面サイズであること
b:ディスプレイ画面上の輝度又はコントラストは作業者が容易に調整できるものが望ましい
c:必要に応じ、作業環境及び作業内容等に適した反射処理をしたものであること
d:ディスプレイ画面の位置、前後の傾き、左右の向き等を調整できるものであることが望ましい
②入力機器(キーボード、マウス等)
*入力機器は、次の要件を満たすものを用いること
a:キーボードは、ディスプレイから分離して、その位置が作業者によって調整できることが望ましい
b:キーボードのキーは、文字が明瞭で読みやすく、キーの大きさ及びキーの数がキー操作を行うために適切であること
c:マウスは使用する者の手に適した形状及び大きさで、持ちやすく操作がしやすいこと
d:キーボードのキー及びマウスのボタンは、 押下深さ(ストローク)及び押下力が適当であり、操作したことを作業者が知覚し得ることが望ましい
*目的とする情報機器作業に適した入力機器を使用できるようにすること
*必要に応じ、パームレスト(リストレスト)を利用できるようにすること
ノート型機器
①適した機器の使用
目的とする情報機器作業に適したノート型機器を適した状態で使用させること
②ディスプレイ
ディスプレイは、デスクトップ型の[a:ディスプレイの要件に適合したものを用いること]。ただし、ノート型機器は、通常、ディスプレイとキーボードを分離できないので、長時間、情報機器作業を行う場合については、作業の内容に応じ外付けディスプレイなども使用することが望ましい
③入力機器(キーボード、マウス等)
入力機器は、デスクトップ型の[a:入力機器の要件に適合したものを用いること]。ただし、ノート型機器は、通常、ディスプレイとキーボードを分離できないので、小型のノート型機器で長時間の情報機器作業を行う場合については、外付けキーボードを使用することが望ましい
④マウスやテンキー等の使用
必要に応じて、マウス等を利用できるようにすることが望ましく、数字を入力する作業が多い場合は、テンキー入力機器を利用できるようにすることが望ましい
タブレット・スマートフォンなど
①適した機器の使用
目的とする情報機器作業に適した機器を適した状態で使用させること
②オプション機器の使用
長時間、タブレット型機器等を用いた作業を行う場合には、作業の内容に応じ適切なオプション機器(ディスプレイ、キーボード、マウス等)を適切な配置で利用できるようにすることが望ましい

【3】家具や環境改善で肩こり予防

長時間のデスクワークでは、作業者の心身の負担を軽減し、作業者が支障なく作業を行うことができるよう、次により情報機器作業に適した作業環境管理を行うことを「情報機器作業ガイドライン」では提案しており、職場での肩こりを防ぐ対策として、職場の作業環境を細かく対応して行くことが重要となっています。

オフィス家具の対処法
①椅子
*椅子は、次の要件を満たすものを用いることを推奨しています。
a:安定しており、かつ、容易に移動できること
b:床からの座面の高さは、作業者の体形に合わせて、適切な状態に調整できること
c:複数の作業者が交替で同一の椅子を使用する場合には、高さの調整が容易であり、調整中に座面が落下しない構造であること
d:適当な背もたれを有していること。また、背もたれは傾きを調整できることが望ましい
e:必要に応じて適当な長さの肘掛けを有していること
②机または作業台
*机または作業台は、次の要件を満たすものを用いることを推奨しています。
a:作業面は、キーボード、書類、マウスその他情報機器作業に必要なものが適切に配置できる広さであること
b:作業者の脚の周囲の空間は、情報機器作業中に脚が窮屈でない大きさのものであること
*机又は作業台の高さについては、次によること
a:高さの調整ができない机又は作業台を使用する場合、床からの高さは作業者の体形にあった高さとすること
b:高さの調整が可能な机又は作業台を使用する場合、床からの高さは作業者の体形にあった高さに調整できること
照明及び採光
a:室内は、できる限り明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせないようにすること
b:ディスプレイを用いる場合の書類上及びキーボード上における照度は300ルクス以上とし、作業しやすい照度とすること。また、ディスプレイ画面の明るさ、書類及びキーボード面における明るさと周辺の明るさの差はなるべく小さくすること
c:ディスプレイ画面に直接又は間接的に太陽光等が入射する場合は、必要に応じて窓にブラインド又はカーテン等を設け、適切な明るさとなるようにすること
d:間接照明等のグレア防止用照明器具を用いること
e:その他グレアを防止するための有効な措置を講じること

■騒音の低減、温度管理、その他■
情報機器及び周辺機器から不快な騒音が発生する場合には、騒音の低減措置を講じること。換気、温度及び湿度の調整、空気調和、静電気除去、休憩等のための設備等について事務所衛生基準規則に定める措置等を講じること。
オフィス内でデスクワークしているのに汗が出るような暑さや、上着を着ないといけないような寒すぎにならないよう、季節に応じた温度調整や湿度管理を行うようにしましょう。

■同じ姿勢を続けない■
ガイドラインに沿って、適切な机や椅子を使っていても、デスクワークでは同じ姿勢を長く続けないことを意識しましょう。ときどき姿勢を変える、適度な運動や体操を取り入れ、肩甲骨まわりの血行を改善することで、肩こりを予防することができます。

【4】肩こりで参考になるサイト

女性の健康推進室 ヘルスケアラボWEBサイト
女性の健康推進室ヘルスケアラボは平成30~31年厚生労働科学研究費補助金を元に進められている「女性の健康の包括的支援政策研究事業」の一環として、女性の健康の一層の増進を図るために女性の健康を生涯にわたり包括的に支援することを目的とする研究の一部として運営されています。女性に向けた病気について専門医師が開設しているサイトで、肩こりについても解説があります。

一般社団法人日本女性医学学会
女性のライフステージに応じた健康管理の進歩・発展を図り、人類・社会の福祉増進に貢献することを目的として設立された学術団体ですが、更年期世代女性にみられる代表的な症状と、関連する病気について詳しく書かれています。

あとがき

普段の生活の中で、肩関節に強い痛みを感じたり、関節の動きが悪くなっていたり、夜中に強い痛みが出た場合は、四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)の可能性もありますから、産業医に相談してみてください。(産業医 関谷剛)

関連記事