ノロウィルス〜冬に流行し、集団感染をおこしやすい感染症〜
『今年の冬は様々な感染症が同時流行しています』
先月のロハス通信で予測していましたが、12月中旬に日本全国でインフルエンザの流行が1定点医療機関あたりの患者報告数が全国平均で「33.72人」となり、今シーズン初めて全国規模で警報基準レベルの「30人」を超え危険水域まで増加してきました。
今年の特徴は、AH3亜型(A香港型)が60%、2009年に新型インフルエンザウイルスとして大流行したAH1pdm09が37%を占め、二つのタイプが同時に流行していることです。過去10年で最も流行した2018年から2019年のシーズンでも二つのタイプの同時流行が起きていましたので、正月休み明けの事業所ではインフルエンザの感染には十分な対策を行ってください。
また、子どもを中心に流行が続く咽頭結膜熱、いわゆるプール熱の患者数が過去10年間で最も多い状況が続いています。東京都は「溶連菌感染症」の一種である「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」についても、流行警報を初めて発表しました。この病気は子どもがかかりやすく、発熱やのどの痛みなどの症状が出る感染症で、都は、こまめな手洗いなど感染対策の徹底を呼びかけています。
図1:国立感染症研究所発行「感染症週報」2023年第48週(11月27日〜12月3日)より抜粋
更に、隣国の中国では子どもたちを中心に呼吸器感染症の患者が増えていて、中国政府の保健担当部門である国家衛生健康委員会は、11月26日の記者会見で、流行の中心はインフルエンザで、このほか通常のかぜのウイルスの「ライノウイルス」や、発熱やせきなどの症状が特徴の「マイコプラズマ肺炎」など複数の病原体が患者の増加に関わっていると説明しています。
このように子ども達に感染症が急増しているのは、3年間に及ぶコロナ禍での感染症に対しての予防対策が行われたことにより、コロナ以外の感染症に対しての感染経験がなくなったことです。特に中国では「ゼロコロナ」政策のもとで感染対策が徹底されたため、さまざまな感染症に対して十分な免疫を持たない人が諸外国より多いことが、今年冬の大流行の原因の1つだと指摘できるでしょう。
統括産業医の関谷です。
今年の冬は例年以上に様々な感染症に注意が必要となっていますが、その中でも集団感染をおこしやすく、子どもやお年寄りでは重症化することがある感染症がノロウイルスです。ノロウイルスの感染は、年間を通して発生していますが、厚生労働省の調査によると、11月頃から発生件数は増加しはじめ、12月~翌年2月が発生のピークになる傾向があります。他の感染症とは予防や対策、治療方法がノロウイルスでは若干の違いがありますので、感染症が広がっているこの時期に、感染症の一つであるノロウイルスについても是非知識を深め、集団感染を防ぎ、感染しても重症化することがないようにしてください。
[1]ノロウイルスとは
年間の食中毒の患者数の約半分はノロウイルスによるものですが、うち約7割は11月~2月に発生しており、この時期の感染性胃腸炎の集団発生例の多くはノロウイルスによると考えられます。
ノロウイルスは手指や食品などを介して、経口で感染し、ヒトの腸管で増殖し、おう吐、下痢、腹痛、微熱などを起こします。ノロウイルスは、感染力が強く、大規模な食中毒など集団発生を起こしやすいため、注意が必要です。
■感染経路■
このウイルスの感染経路はほとんどが経口感染で、次のような感染様式があると考えられています。
(2)家庭や共同生活施設などヒト同士の接触する機会が多いところでヒトからヒトへ飛沫感染等直接感染する場合
(3)食品取扱者(食品の製造等に従事する者、飲食店における調理従事者、家庭で調理を行う者などが含まれます)が感染しており、その者を介して汚染した食品を食べた場合
(4)汚染されていた二枚貝を、生あるいは十分に加熱調理しないで食べた場合
(5)ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道を消毒不十分で摂取した場合
特に、食中毒では(3)のように食品取扱者を介してウイルスに汚染された食品を原因とする事例が、近年増加傾向にあります。また、ノロウイルスは(3)、(4)、(5)のように食品や水を介したウイルス性食中毒の原因になるばかりでなく、(1)、(2)のようにウイルス性急性胃腸炎(感染症)の原因にもなります。この多彩な感染経路がノロウイルスの制御を困難なものにしています。
■ノロウイルスによる食中毒の発生件数■
厚生労働省では1997年(平成9年)からノロウイルスによる食中毒については、小型球形ウイルス食中毒として集計してきましたが、最近の学会等の動向を踏まえ、2003年8月29日に食品衛生法施行規則を改正し、現在はノロウイルス食中毒として統一し、集計しています。
2022年の食中毒発生状況によると、ノロウイルスによる食中毒は、事件数では、総事件数962件のうち63件(6.5%)、患者数では総患者数6,856名のうち2,175名(31.7%)となっています。
この3年間の患者数は減少していましたが、これはコロナ禍の状況で外食の頻度が少なくなったことや、飲食店や大量調理作業場での衛生対策が以前よりも厳格になったことが要因として考えられます。今年はコロナが感染症法上の位置付けが5類となって初めての冬となりますから、ノロウイルスの発生数が増える可能性が十分に有り注意が必要です。
[2]症状と予防対策
国内の病院や社会福祉施設でノロウイルスの集団感染が発生している時期に、当該施設で死者が出たことがあります。しかし、もともとの疾患や体力の低下などにより介護を必要としていた方などが亡くなった場合、ノロウイルスの感染がどの程度影響したのか見極めることは困難です。なお、吐いた物を誤嚥することによる誤嚥性肺炎や吐いた物を喉に詰まらせて窒息する場合など、ノロウイルスが関係したと思われる場合であっても直接の原因とはならないこともあります。
ノロウイルスにはワクチンがなく、治療は輸液などの対症療法に限られるので、予防対策を徹底しましょう。
■感染後の症状■
感染した場合、約24~48時間で吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、微熱などの症状が出てきます。通常、これらの症状が1~2日間続いた後に治癒し、後遺症もありません。 また、健康で体力のある方は、感染しても発症しない場合や、軽い風邪のような症状の場合もあります。ただし、子どもやお年寄りなどでは重症化することがありますので、特にご注意ください。
■予防対策■
ノロウイルスについてはワクチンがなく、また、治療は輸液などの対症療法に限られます。従って、皆様の周りの方々と一緒に、ご家庭などでできる予防対策、3つのポイントを徹底しましょう!
特に食事前、トイレの後、調理前後は、石けんでよく洗い、流水で十分に流しましょう。
※消毒用エタノールによる手指消毒は、石けんと流水を用いた手洗いの代用にはなりませんが、すぐに石けんによる手洗いが出来ないような場合、あくまで一般的な感染症対策の観点から手洗いの補助として用いてください。
②「人からの感染」を防ぐ!
家庭内や集団で生活している施設でノロウイルスが発生した場合、感染した人の便やおう吐物からの二次感染や、飛沫感染を予防する必要があります。
ノロウイルスが流行する冬期は、乳幼児や高齢者の下痢便や嘔吐物に大量のノロウイルスが含まれていることがありますので、おむつ等の取扱いには十分注意しましょう。
③「食品からの感染」を防ぐ!
*加熱して食べる食材は中心部までしっかりと火を通しましょう
二枚貝等ノロウイルス汚染のおそれのある食品の場合、ウイルスを失活させるには、中心部が85℃~90℃で90秒間以上の加熱が必要とされています。
*調理器具や調理台は「消毒」して、いつも清潔に
まな板、包丁、食器、ふきんなどは使用後すぐに洗いましょう。
熱湯(85℃以上)で1分以上の加熱消毒が有効です。
[3]感染したと思ったら
ノロウイルスに感染したと思ったら、最寄りの保健所やかかりつけの医師にご相談下さい。また、保育園、学校や高齢者の施設等で発生したときは早く診断を確定し、適切な対症療法を行うとともに、感染経路を調べ、感染の拡大を防ぐことが重要ですので、速やかに最寄りの保健所にご相談下さい。
なお、介護保険施設等に関しては、厚生労働大臣が定める手順(平成18年厚労告268「厚生労働大臣が定める感染症又は食中毒の発生が疑われる際の対処等に関する手順」)に沿って、必要な場合は市町村及び保健所への報告等を行うようにしてください。
■発症時の治療方法■
現在、このウイルスに効果のある抗ウイルス剤はありません。このため、通常、対症療法が行われます。特に、体力の弱い乳幼児、高齢者は、脱水症状を起こしたり、体力を消耗したりしないように、水分と栄養の補給を充分に行いましょう。脱水症状がひどい場合には病院で輸液を行うなどの治療が必要になります。
止瀉薬(いわゆる下痢止め薬)は、病気の回復を遅らせることがあるので使用しないことが望ましいでしょう。
[4]ノロウイルスで役に立つサイト
厚生労働省「ノロウイルスのQ&A」
ノロウイルスが飲食を伴う集団感染症であることから、食中毒を管轄する厚生労働省ではノロウイルスに関しての予防や対策について詳しく紹介しています。飲食店や事業所でも使える予防法についてのパンフレットをダウンロードできるようになっています。
首相官邸 ノロウイルス(感染症胃腸炎・食中毒)対策
厚生労働省のサイトは専門的に詳しく書かれていますが、一般向けに分かり易く書かれているのは、首相官邸のサイトです。必要に応じて厚生労働省や国立感染症研究所のサイトに飛べるようになっています。
あとがき
コロナウイルスでは現在流行しているのはオミクロン株のXBB系統ですが、今後世界的に感染者数が増えている同じオミクロン株のBA.2系統が日本でも1月以降は急増すると予測されており、今年の冬は事業所でもご家庭でも感染症対策を怠らないようにしてください。(産業医 関谷剛)