季節性うつ病~季節の変わり目に発症しやすい疾病~
統括産業医の関谷です。
猛暑が続いた夏がようやく終わり、11月に入りグッと涼しくなってきましたが、秋から冬にかけて発症する疾病があります。心理社会的ストレスと関係なく、秋から冬にかけて発症するうつ病で、春や夏になると症状が軽快する病態があり、季節性うつ病と言います。発生頻度は女性に多く、日照時間や遺伝的な光感受性の減弱が関係している可能性が指摘されています。
1:季節性うつ病(冬季うつ病)とは
季節性うつ病とは、ある季節のみうつ病になるものを指し、季節性感情障害とも呼ばれています。冬季のみでなく、夏季や雨季などの季節性うつ病も存在しますが、毎年日照時間が短くなる10月から11月にかけて症状があらわれはじめ、日差しが長くなる3月頃になると回復するというサイクルを繰り返す冬季うつ病は「ウインターブルー」という別名があり、最も発症しやすい季節性うつ病です。
■なぜ秋から冬にうつ病になるのか?■
なぜ秋から冬にかけての時期に季節性うつ病を発症しやすくなるのかというと、日照時間が減ることによって、脳内における「セロトニン トランスポーター」(SERT)と呼ばれるタンパク質の量が変動するためと考えられています。
もうひとつの原因は、体内時計の乱れです。人の体には「概日時計」と呼ばれる体内時計を調整する機能が備わっており、睡眠と覚醒や、ホルモン分泌のリズムを整えています。脳の視床下部にある「視交叉上核(しこうさじょうかく)」と呼ばれる神経が、体中の概日時計をコントロールし、いわばオーケストラの指揮者のような役割を果たしています。例えば時差ボケやシフトワーク、不規則な生活が続くと、気分がすぐれなくなったり、体調不良が起こるのは、視交叉上核がうまく働かなくなるからです。暗い時間が長い秋や冬になり、この概日時計が日差しの明暗に同調できなくなると、生理機能に影響が出てくるわけです。
■冬季うつの特徴■
冬季うつは、男性より女性が発症しやすいと言われています。女性の中でも20代〜30代の女性に多いとも言われていて、一度発症すると毎年繰り返すとも指摘されています。冬季うつ病は、症状が重いと日常生活に支障をきたすこともある深刻な病気です。
□ 気分が落ち込むことが多い
□ 以前ならこなせた仕事をうまく処理できない
□ ぐったりとして疲れやすい、体を動かすのがおっくうになる
□ 今まで楽しんできたことを楽しめない
□ 考えたり、集中する力が明らかに落ちている
□ ふだんより睡眠時間が長くなったり、朝起きられなくなる
□ 食欲が減退したり、逆に亢進し、炭水化物を中心に食べ過ぎてしまう
■冬季うつを緩和するための対処法■
米国家庭医アカデミー(AAFP:American Academy of Family Physicians)では、冬季うつ病の対処法として下記のことをアドバイスしています。
①栄養バランスの良い食事をする
セロトニンが不足すると、脳の働きに不調が起きます。食事でセロトニン生成に必要なタンパク質やビタミン、ミネラルなどの栄養素を十分に摂取することが大切。肉、魚、大豆などのタンパク質にはセロトニンの生成に必要な必須アミノ酸のひとつである「トリプトファン」が含まれているので、過不足なく摂ることがお勧めです。
②ウォーキングなどの運動をする
活発な運動によって、気持ちをコントロールする神経伝達物質のひとつ「ドーパミン」が分泌され、気分が落ち込んでいたり、イライラに悩まされているときに、症状を改善する効果を得られます。
③自分の感情を話せる人をみつける
気持ちを誰かに話してみるのもお勧めです。もし身近に自分の感情を話せる人がいないのなら、サポートグループを見つけて、そこで自分の気持ちを話してみましょう。なるべく外に出て人に会うことで、気持ちがすっきりするのが実感できるはずです。
④自宅・仕事場を明るくする
季節性うつ病の改善に必要なのは、自然の光により多く当たることです。治療では「高照度光療法」が行われることもあります。光を浴びることで体内時計を調節して生体リズムを整える治療法です。
⑤「ToDoリスト」を作り整理する
タスクやプロジェクトが順序良く、きちんと整理されていると、落ち込みや憂鬱感を緩和できます。 「ToDoリスト」を作成し、実行可能なものに優先順序を付けて、自分に合った生産性向上スタイルを身に付けるといいとされています。
2:季節性うつ病と間違われやすい病気
■双極性障害など■
双極性障害は、躁(そう)状態とうつ状態をくりかえす病気です。躁状態とうつ状態は両極端な状態です。その極端な状態をいったりきたりするのが双極性障害なのです。
「双極性障害」はかつて「躁うつ病」といわれていました。そのこともあってうつ病の一種と誤解されがちでしたが、実はこの二つは異なる病気で、治療も異なります。
■季節性うつ病と紛らわしい症状■
日本における双極性障害の患者さんの頻度は、重症・軽症の双極性障害をあわせても0.4~0.7%といわれています。1,000人に4~7人弱ということで、これは100人に10人弱といわれるうつ病に比べると頻度は少ないといえます。
躁状態の時は現実離れした行動をとりがちで、本人は気分がいいのですが周りの人を傷つけ、無謀な買い物や計画などを実行してしまいます。再発しやすい病気なので、こうした躁状態をくりかえすうちに、家庭崩壊や失業、破産などの社会的損失が大きくなっていきます。
また、うつ状態はうつ病と同じように死にたいほどの重苦しい気分におしつぶされそうになりますが、躁状態の時の自分に対する自己嫌悪も加わり、ますますつらい気持ちになってしまいます。こうした躁とうつの繰り返しを治療せずに放置していると、だんだん再発の周期が短くなっていきます。躁状態では本人は気分がいいので治療する気にならないことが多いのですが、周りの人が気づいて早めに治療を開始することが望まれます。
【双極性障害の躁状態のサイン・症状】
•睡眠時間が2時間以上少なくても平気になる
•寝なくても元気で活動を続けられる
•人の意見に耳を貸さない
•話し続ける
•次々にアイデアが出てくるがそれらを組み立てて最後までやり遂げることができない
•根拠のない自信に満ちあふれる
•買い物やギャンブルに莫大な金額をつぎ込む
•初対面の人にやたらと声をかける
•性的に奔放になる
3:季節性うつ病で参考になるサイト
日本うつ病学会のサイト
うつ病に関する様々な問題を研究している日本うつ病学会では、一般の方に対して、うつ病に関する情報もサイトで提供しています。また、双極性障害に関しては、専門医による資料が複数ダウンロード出来る仕様になっています。
こころの耳(厚生労働省)
厚生労働省が運営する、働く人のメンタルヘルス・サポートサイト「こころの耳」では、うつ病にかんしての症状や予防法についてわかりやすく紹介しています。職場でのメンタルヘルス対策の取り組み事例も掲載されています。
あとがき
どういう職種の事業所を訪ねても、産業医への一番多い相談はうつ病に関してです。会社として取引先やライバル会社には知られたくはないという事情や、発症している本人の家族にどう伝えるかという問題もあります。事業所・患者本人・家族それぞれの事情に配慮しながら最良の方法を提案出来るのが産業医の強みですから遠慮無く、いの一番にご相談下さい。(産業医 関谷剛)