感染症のウイルス性肝炎
統括産業医の関谷です。
新型コロナウイルスが社会生活全てに甚大な影響を与えたことで、ご自身や家族、職場の同僚など身近に関わる人々の健康を保つには、感染症にかからないようにすること、更にかかっているかどうか御本人が確認することが重要であることが、身に染みて理解できたのではないでしょうか。
では、質問です。「ウイルス性肝炎の検査はいつ受けられましたか?」
ウイルス性肝炎とはウイルスの感染によって起こる肝臓の病気で、ウイルスの種類によって、B型肝炎、C型肝炎等と呼ばれ、A型肝炎及びE型肝炎を除くウィルス性肝炎は、コロナウィルスで昨今メディアでも大々的に取り上げられて大きなニュースとなっているインフルエンザと同じ感染症法第五類に分類されている感染症で、A型とE型は更に健康へのダメージが大きい感染症法の第四類に分類されています。
東京都内には、B型及びC型肝炎ウイルスに感染している人が20万人から30万人いると推計されています。しかし、感染していても自覚症状がないことも多いため、検査を受けずに感染がわからないままの人が多く存在します。現在、B型肝炎の感染経路として最も注意すべきなのはB型肝炎ウイルスに感染している人との性交渉による感染です。
肝炎は、感染した状態を放置すると慢性肝炎から肝硬変、肝がんに進行する場合があります。コロナやインフルエンザ以外の感染症についても、ぜひ家庭や職場でも知識を増やして、感染しないライフスタイルを構築してください。
[1]ウイルス性肝炎の分類
肝臓は、人間の体内で最大の臓器です。消化管から取り込んだ栄養を利用しやすい形に変えたり、毒物を分解したり、体内の物質のバランスを維持したりなど、肝臓は生命を支えるために重要な多くのはたらきを担っています。この肝臓の細胞が壊れてしまった状態が、肝炎です。
肝炎には、原因により、ウイルス性(A 型、B 型、C 型、D 型、E 型など)、薬物性、アルコール性、自己免疫性などの種類があり、このうち、ウイルス性肝炎は、肝炎ウイルスに感染することによって起こります。
【ウイルス性肝炎の臨床経緯による分類】
①急性肝炎
*A 型、B 型、E 型ウイルスによるものが多い
*急激に肝細胞が障害され、発熱、全身倦怠感、黄疸などの症状を起こす
*自然経過で治癒する例が多い
②急性肝不全
*急性肝炎のうち8週以内に血液中の凝固因子の値が一定の値以下に低下したもの
③慢性肝炎
*B 型、C 型肝炎ウイルスによるものが多い
*長期間にわたり肝障害が持続する
*徐々に肝臓が線維化し肝硬変に至ることもある
[2]B型とC型肝炎とは
現在、わが国で問題になっているのが、B・C型肝炎です。B型、C型の肝炎ウイルスの感染によって起こる肝臓の病気で、B・C型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染します。感染していても症状が現れにくいため、気づかないうちに肝臓の炎症が進み慢性肝炎となり、放置すると肝硬変や肝がんへと進行していくことがあります。国内には肝炎ウイルスのキャリアはB型が少なくとも約110万人、C型は約90万人いると推定され、また、肝炎を発症している患者さんは、B型が約19万人、C型は約30万人と推定されています。
【B型肝炎とは】
B型ウイルス肝炎(B型肝炎)は、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus=HBV)の感染によって起こる肝臓の病気です。肝臓の細胞内(肝細胞内)でウイルスが増えて、肝細胞が壊れ、肝臓の働きが悪くなることで肝炎が起こります。
HBVに感染すると、一定期間(潜伏期)を経て、全身倦怠感、食欲不振、吐き気などの症状が現れ、引き続き黄疸が出現します。ただし、自覚症状がないまま治癒したり、ウイルスを保持したまま経過することもあります。
【HBVの主な感染経路】
○ B型肝炎ウイルスに感染している人の血液を輸血(現在はほとんどない)
○ B型肝炎ウイルスに感染している人との注射針、入れ墨針の使いまわし
○ 十分に消毒されていない器具を使ってピアスの穴をあける
○ 性行為
○ 母子感染(現在は少ない)
【HBV感染後の症状・経過】
母子感染か成人してからの感染かで症状や経過は大きく異なります。
○母子感染
新生児期、乳幼児期に感染した場合、肝炎ウイルスが身体の中から排除されずに住みついてしまうことがあります。このような状態にある人をHBVの持続感染者(HBVキャリア)と呼びます。
感染が起きてもしばらくは無症状で経過し、10歳代後半から30歳代にかけて肝炎が発症しますが、必ずしも症状を伴わない場合もあります。肝炎が軽快した後、大部分の人は全く症状がなく、また肝機能検査でも異常がなくなる無症候性キャリアになります。しかし、少数例ですが慢性肝炎に移行する人もいます。
○成人になってからの感染
成人になってから感染した場合、潜伏期を経て、全身倦怠感、食欲不振、吐き気などの症状が現れ、引き続き黄疸が出現します。急激に症状が悪化して劇症肝炎を発症し死亡することも稀にあります。
HBVは、成人になって感染した場合、ほとんど慢性化することはないとされてきましたが、最近、欧米由来の慢性化しやすい遺伝子型A(※1)が国内でも増えています。
HBVに持続感染している人では、このような症状が出なくても慢性肝炎が潜んでいる場合もあり、その状態を放置すると肝硬変から肝がんへと進行する場合もありますので、専門医による診察を受けることが必要です。
(※1)HBVには、遺伝子型によってAからHまでの8つのタイプがあります。日本人に多いのは、B及びCタイプです。
【C型肝炎とは】
C型ウイルス肝炎(C型肝炎)はC型肝炎ウイルス(Hepatitis C Virus=HCV)の感染によって起こる肝臓の病気です。
HCVは、感染している人の血液が体内に入ることによって感染します。肝炎になると、肝細胞内でウイルスが増えて、肝細胞が壊れ、肝臓の働きが悪くなります。
HCVに感染すると、一定期間(潜伏期)を経て、全身倦怠感、食欲不振、吐き気などの症状が現れ、それに引き続き黄疸が出現することがあります。しかし、黄疸が出現しないこともあり、また自覚症状がないまま経過することもあります。一般に、B型肝炎と比較して症状が軽いことが特徴です。
【HCVの主な感染経路】
○ C型肝炎ウイルスに感染している人の血液を輸血(現在はほとんどない)
○ C型肝炎ウイルスに感染している人との注射針、入れ墨針の使いまわし
○ 十分に消毒されていない器具を使ってピアスの穴をあける
【HCV感染後の経過】
HCVに初めて感染した人の約70%前後(※2)は、ウイルスが身体の中から排除されずに住み着いてしまいます。これを放置すると本人が気づかないうちに慢性肝炎となり、さらに一部の人では肝硬変肝がんへと進行する場合もあるので注意が必要です。
肝臓は予備能力が高く、病気がかなり進行するまで症状が出ないことがあります。もし、HCVに感染していることがわかったら、症状の有無にかかわらず定期的に受診して肝臓の状態を調べ、病気を早く発見し、適切な治療を受けることが大切です。
(※2)出典:独立行政法人 国立国際医療研究センター 肝炎情報センター
■HBVとHCVの感染予防について■
他人の血液になるべく触れないことが大切です。以下にあげる事項など、一般的に誰もが気をつけるべきことがらに注意して生活することを心掛けていれば、日常生活でHBVやHCVキャリアの方から周囲の人に感染することはほぼないものと考えられています。握手や抱き合うこと、一緒に入浴すること、食器やコップの共用、くしゃみ、咳では感染しません。なお、具体的には、以下のようなことに気をつけてください。
(1)歯ブラシ、カミソリなど血液が付いている可能性のあるものを共用しない。
(2)他の人の血液に触るときは、ゴム手袋を着ける。
(3)注射器や注射針を共用して、薬物(覚せい剤、麻薬等)の注射をしない。
(4)入れ墨やピアスをするときは、適切に消毒された器具であることを必ず確かめる。
(5)性行為による感染症予防のためには、コンドームを使用する。
[3]なぜ検査が必要なのか?
肝炎を予防するためには、肝炎ウイルスに感染しないようにしなければなりません。わが国では肝炎の知識が国民に普及していない状況の下で、多くの肝炎ウイルスキャリアが、感染の自覚がないまま日々を過ごしていることが問題視されています。
肝がんの原因の約80%が肝炎ウイルスといわれています。肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、もしもウイルスに感染していても、自覚症状がないまま病気が進行する恐れがあります。そして、ウイルスに感染しているかどうかは検査を受けないとわかりません。
ウイルス性肝炎は今日、多くの原因ウイルスと感染経路が判明し、発症の仕組みも解明され、さまざまな治療法が研究・開発されています。もし、肝炎ウイルスに感染していても、早期に適切な治療を行うことで、肝炎を治癒し、あるいは肝硬変や肝がんへの悪化を予防することが可能なのです。
肝炎ウイルスの検査は採血のみです。皆さんのためにも、周りの大切な方のためにも、必ず一度は検査を受け、早期治療につなげなければなりません。
[4]ウイルス性肝炎で参考になるサイト
厚生労働省の「知って、肝炎プロジェクト」サイト
「肝炎対策の推進に関する基本指針」(平成23年5月16日制定、令和4年3月7日改正)に基づき、肝炎に関する知識や肝炎ウイルス検査の必要性を分かりやすく伝え、国民が肝炎への正しい知識を持ち、早期発見・早期治療に向けた行動を促すため、多種多様な媒体を活用しての効果的な情報発信や民間企業との連携を通じた肝炎対策を展開し、肝炎総合対策を国民運動として推進しています。
東京都福祉保健局の「肝炎ウィルス検診を受けましょう」サイト
東京都福祉保健局では肝炎ウイルスの検査受診を促すために、サイト「とうきょう健康ステーション」内に専用ページ「肝炎ウイルス検診を受けましょう」を開設し、肝炎ウイルス検査を受けられる行政の窓口を掲載し、感染が分かった後の肝臓専門医療機関の紹介や相談窓口も分かるようになっており、分かり易いデザインです。
あとがき
職場で実施されている通常の定期健康診断の必須項目に肝炎ウイルス検査は含まれていません。定期健康診断の項目に追加するか、区市町村が実施する検査を受検することを職場でも考え、迷った際には産業医に相談して下さい。産業医 関谷剛