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産業医 関谷 剛 メッセージ

歯周病と全身の健康について

統括産業医の関谷です。

今回は産業医の間でも先月から話題になっているテーマです。既に新聞紙上でも記事になっていますが、今年5月末に政府が発表した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)案で、歯科検診を成人でも毎年実施する「国民皆歯科検診」制度を検討していることを明記しました。これまで高校生までは毎年の歯科検診が義務づけられていましたが、大学生以上の大人には対象になっていませんでした。新しい施策が実施されると成人になっても歯科検診を受ける事になりますが、なぜそこまで歯科検診が重要なのでしょうか?
歯科健診義務化の背景には医療費の削減という目的があり、定期健診で歯周病などの病気を悪化前に早期に発見し、1人あたりの生涯医療費を抑える狙いがあります。では、なぜ歯周病を早期に見つける必要があるのでしょう?
歯周病は、口の中で発生する生活習慣病とも言われていて、歯周病が発端になって複数の生活習慣病を誘発していることが分かっているからです。社会全体として口腔保健への意識が高まっている今、事業所内でも歯周病に関しての知識を深め、高齢世代の生活習慣病の予防対策として口内環境の改善に取り組んでみて下さい。

1:歯周病

歯と歯ぐき(歯肉)のすきま(歯周ポケット)から侵入した細菌が、歯肉に炎症を引き起こし、さらには歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしてグラグラにさせてしまう病気を歯周病といいます。むし歯と異なり痛みが出ないことの方が多いのですが、気づかないうちに進行し歯肉からの出血などが起こった後、歯が自然に抜け落ちるほど重症になることがあります。歯を失う80%以上の原因は歯周病もしくはむし歯によるものです。

【1】歯周病になりやすい要因
次のような生活環境で暮らしていたり、体質や病気をお持ちの方は歯周病を進行させる因子(リスクファクター)となり、歯周病になりやすい、或いは進行が早い傾向にあるとされています。
【糖尿病】
【喫煙】
【歯ぎしり、くいしばり、かみしめ】
【不適合な冠や義歯】
【不規則な食習慣】
【ストレス】
【全身疾患(糖尿病、骨粗鬆症、ホルモン異常)】
【薬の長期服用】
【部分的に歯がない(歯がある方で噛むため負担が増加し、歯周病を部分的に進行する)】
【両親が若い時から入れ歯だった】
【口で呼吸することが多い】
【免疫抑制剤を飲んでいる、あるいは免疫低下の状態】

セルフチェック
口内の症状で歯周病かどうかを判断するセルフチェックの方法があります。ご自身の思いあたる症状をチェックしましょう!
【全体】
1.口臭を指摘された・自分で気になる
2.朝起きたら口の中がネバネバする
3.歯みがき後、毛先に血がついたり、すすいだ水に血が混じることがある
【歯肉の症状】
4.歯肉が赤く腫れてきた
5.歯肉が下がり、歯が長くなった気がする
6.歯肉を押すと血や膿が出る
【歯の症状】
7.歯と歯の間に物が詰まりやすい
8.歯が浮いたような気がする
9.歯並びが変わった気がする
10.歯が揺れている気がする
【判定】
◆チェックが1~3個の場合◆
歯周病の可能性があるため、軽度のうちに治療を受けましょう。
◆チェックが4~5個以上の場合◆
中等度以上に歯周病が進行している可能性があります。早期に歯周病の治療を受けましょう。
◆チェックがない場合◆
チェックがない場合でも無症状で歯周病が進行することがあるため、1年に1回は歯科検診を受けましょう。

2:歯周病から生まれる病気とは

歯周病は、口の中の病気としてだけでなく、生活習慣病やその他の病気とも深く関係しています。歯周病から誘発される代表的な5つの病気について紹介していきます。
狭心症・心筋梗塞
動脈硬化は、不適切な食生活や運動不足、ストレスなどの生活習慣が要因とされていましたが、別の因子として歯周病原因菌などの細菌感染がクローズアップされてきました。歯周病原因菌などの刺激により動脈硬化を誘導する物質が出て血管内にプラーク(粥状の脂肪性沈着物)が出来血液の通り道は細くなります。プラークが剥がれて血の塊が出来ると、その場で血管が詰まったり血管の細いところで詰まります。
脳梗塞
脳の血管のプラークが 詰まったり、頸動脈や心臓から血の塊やプラークが飛んで来て脳血管が詰まる病気です。歯周病の人はそうでない人の2.8倍脳梗塞になり易いと言われています。血圧、コレステロール、中性脂肪が高めの方は、動脈疾患予防のためにも歯周病の予防や治療は、より重要となります。
糖尿病
歯周病は以前から、糖尿病の合併症の一つと言われてきました。実際、糖尿病の人はそうでない人に比べて歯肉炎や歯周炎にかかっている人が多いという疫学調査が複数報告されています。さらに最近、歯周病になると糖尿病の症状が悪化するという逆の関係も明らかになってきました。つまり、歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を及ぼしあっていると考えられるようになってきたのです。歯周病治療で糖尿病も改善することも分かってきています。
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎とは、食べ物や異物を誤って気管や肺に飲み込んでしまうことで発症する肺炎です。肺や気管は、咳をすることで異物が入らないように守ることができます。しかし、高齢になるとこれらの機能が衰えるため、食べ物などと一緒にお口の中の細菌を飲み込み、その際むせたりすると細菌が気管から肺の中へ入ることがあります。誤嚥性肺炎の原因となる細菌の多くは、歯周病菌であると言われており、誤嚥性肺炎の予防には歯周病のコントロールが重要になります。
骨粗しょう症
骨粗しょう症は、全身の骨強度が低下し、骨がもろくなって骨折しやすくなる病気で、日本では推定約1.000万人以上いると言われています。そして、その約90%が女性です。骨粗しょう症の中でも閉経後骨粗しょう症は、閉経による卵巣機能の低下により、骨代謝にかかわるホルモンのエストロゲン分泌の低下により発症します。
閉経後骨粗鬆症の患者さんにおいて、歯周病が進行しやすい原因として最も重要と考えられているのが、エストロゲンの欠乏です。エストロゲンの分泌が少なくなると、全身の骨がもろくなるとともに、歯を支える歯槽骨ももろくなります。また、歯周ポケット内では、炎症を引き起こす物質が作られ、歯周炎の進行が加速されると考えられています。

3:歯周病の予防と目標

歯周病の予防を行うことで、全身の様々な病気のリスクを下げることが可能です。日々の歯磨き・口腔ケアを見直し全身の健康につなげましょう。

【予防1】歯周病は歯垢つまり細菌の固まりが歯ぐきの炎症を引き起こすことから始まります。口の中で細菌はバイオフィルムという薄い膜を作り歯に張りついています。バイオフィルムは薬品が効きにくいため、毎日のていねいな歯みがきや歯科医院での清掃が有効です。
【予防2】歯石は歯の表面の石のようなものですが、ざらざらして内部にはすき間もあるためバイオフィルムができやすくなります。歯石は自分で取ることができないので定期的に歯科医院を受診して歯石を取ってもらうことが必要です。

厚生労働省と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という「8020(ハチマルニイマル)運動」があります。残存歯数が約20本あれば食品の咀嚼が容易であるとされており、「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との願いを込めてこの運動が始まりました。楽しく充実した食生活を送り続けるためには、妊産婦を含めて生まれてから亡くなるまでの全てのライフステージで健康な歯を保つことが大切です。ぜひ「8020」を目指してください。

4:歯周病の予防や治療で参考になるサイト

治療方法について詳しい「日本臨床歯周病学会」サイト
一般社団法人日本臨床歯周病学会のホームページでは「歯周病について」として、歯周病の原因から症状、タバコとの関係等、詳しくかつ分かり易く記載があります。特に治療方法について、様々なアプローチについて具体的な方法や流れをイラストを使って掲示してあり、大変参考になります。セルフケアとプロフェショナルケア(歯科医院で行う)についての記載もありますので、ぜひ御覧下さい

厚生労働省の「e-ヘルスネット」のホームページ
厚生労働省が生活習慣病予防のために開設した健康情報サイト「e-ヘルスネット」では、「歯・口腔の健康」という大きなテーマの中で歯周病を紹介しています。歯周病が生活習慣病と深く関係しているため、予防方法やメインテナンスについては長文で詳細に記述があります。日常生活で歯周病にならないような予防方法を専門の歯科医師が記述して、大変参考になりますから、一度御覧下さい。

あとがき

喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病にかかりやすく、悪化しやすいことがわかっています。喫煙者への歯周病の治療効果は低く、治療後の治りが悪いです。禁煙をすると歯を支える組織の状態が良くなるため、歯周病のリスクが下がり、治療効果が上がります。喫煙者は歯周病の予防に禁煙もお考え下さい。

統括産業医 関谷剛

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