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産業医 関谷 剛 メッセージ

健康診断とは〜会社で健診を行う意義〜

統括産業医の関谷です。
気温が下がり、乾燥する冬に入ると、思いも寄らなかった箇所に痛みを生じやすい時期となります。若い頃にスポーツなどで身体を鍛えたことで、肉体的な健康状態に自信がある方は多いでしょう。しかし、30代40代と年齢を重ねると、否応なしに身体のどこかに何らかの症状が出てきてしまいます。中高年になると職場で責任ある立場となるため、突然の発病で出社出来なくなることは、事業所にとっても大きな痛手です。
健康診断を受診しなかったり、先延ばしにしたりする人もいると思います。しかし、本人の健康を守るため、事業所の円滑な業務を遂行する上でも、健康診断は欠かせません。自分だけでなく、同じ職場で働く同僚の健康のためにも、いまいちど健康診断を受診する目的や意義について学んでみてください。

【1】法的意義

労働安全衛生法第66条第1項及び労働安全衛生規則第44条第1項では、事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期的に医師による健康診断を行わなければならないと規定しています。法律によって実施が義務付けられた「法定健診」(定期検診とも呼ばれる)と、個人が任意判断で受ける「任意健診」に分けられます。

■健診(定期健康診断)と検診の違い■
「法定健診」は乳児・妊婦・市民・従業員などによって内容が定められています。検査項目は、問診(既往歴および業務歴の調査や自覚症状・他覚症状の有無の確認)、身体測定、視力・聴力検査、血圧測定、便及び尿検査、胸部エックス線検査など10数項目からなります。また生活習慣病の予防のために40歳以上には「特定健康診査」(メタボ健診)として、血液検査、肝機能検査、血中脂質検査、空腹時血糖、心電図検査などが加わります。
一方で「検診」は、特定の疾患を見つけるために体の特定の部位を検査することで、例えば「がん検診」などのように病名が付けられており、健診とは異なります。

【2】身体的意義

「これまで病気らしい病気はしたことがない」「自覚症状は何もないから大丈夫」と考えて、健康診断をないがしろにする人がいると思います。しかし、ほとんどの病気は自覚症状がないまま進行しています。また、加齢とともに知らず知らずのうちに身体にゆるみが生じ、つまり、これまでは若さによって表に出なかった疲労や負荷が、痛みや病気となって突然現れます。

■自分の健康状態を知る■
健康診断では血液検査を行いますが、血液中の糖分(グルコース)や脂質(コレステロールや中性脂肪など)といった代謝関連の物質も検査できます。これにより、糖尿病や高コレステロールなどの生活習慣病のリスクを知ることができます。肝機能や腎機能、甲状腺の状態など、各臓器の健康状態も血液検査で評価できます。
健康診断の結果は「健康診断書(検査成績表)」で本人に通知されます。自身の健康が現状どの状態にあるかを、客観的な数値で把握することは健康には重要なポイントです。

■病気の早期発見・早期治療■
病気と診断される前の段階で、健康診断によって病気の予兆が見つかれば、食事を含めた生活習慣を改めたり、治療することで、大病になることを防いだり、発病を遅らせたりすることもできるでしょう。
例えば、がんと診断されてから、10年後に生存している割合を示す指標として「10年生存率」があります。国立がん研究センターが2025年2月に公表した「院内がん登録2012年10年生存率集計」では、がんの10年生存率は部位やステージによって異なりますが、概ね「早期のステージ」でがんと診断された症例ほど生存率が高いという結果が出ています。
一例として、下図で大腸がんのステージ別10年生存率のグラフを紹介しておきます。


出典:国立がん研究センター がん情報サービス「院内がん登録全国集計」

【3】会社としての意義

健康診断は事業所が費用負担しています。会社は定期検診を従業員に受診させることで、企業活動にプラスになるように、積極的に健康診断の狙いを理解しておきましょう。

■生活習慣病によるリスク軽減■
生活習慣病とは、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患の総称です。日本人の死因の上位を占める、がんや心臓病、脳卒中は、生活習慣病に含まれます。

定期健診の重要性①
定期的な健康診断を受診することにより、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の前兆を見いだすことができます。病気の予兆が現れた時点で、それぞれの疾病に関する専門的な検査を受けられれば、疾患の早期発見に繋がります。また、生活習慣の見直しといった予防対策にも早期に取り組めます。

■人的資本投資と健康経営■
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。健康経営とは、従業員への健康投資を行うことで組織の活性化を促し、業績向上につなげる経営手法です。
この二つは、従業員が健康で意欲を持って働けるように職場環境や制度を整えることを指し、長期的に働く人の健康と幸福を会社がサポートすることで、会社にとっても大きな利益を生み出すことを意味しています。

定期健診の重要性②
1年に1回の定期健診は、人的資本投資と健康経営の一丁目一番地といえます。人的資本投資と健康経営を現実化するためにも、全ての従業員が毎年健康診断を受診するように、産業保健担当者だけでなく管理職や経営陣も、健康診断の重要性を認識して、若い社員にも必ず受診するよう促してほしいものです。

【4】健康診断で参考になるサイト

厚生労働省 職場の安全を応援する情報発信サイト「職場の安全サイト」定期健康診断
職場の安全サイトは、労働安全衛生に対する意識啓発を目的として厚生労働省が開設し、その運用保守と新規コンテンツの作成が2023年度に独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所に移管されたWebサイトです。主なコンテンツとして、労働災害統計や労働災害事例に各種教材・ツールを多言語で提供しており、安全衛生のキーワードの一つとして定期健康診断について解説しています。

東京都保健医療局 気軽に実践! 健康づくり応援ガイド
東京都保健医療局では、健康や病気の内容に応じて専用のWebサイトを開設しており「健康づくり応援ガイド」では運動や食生活などの日常生活の中で取り組む健康づくりを目的にして、運動や睡眠、食生活や飲酒というテーマに分けて紹介記事が書かれています。検診・健診受診もテーマの一つで、健康診断の意義について解説があります。

厚生労働省 健康日本21アクション支援システム「健診」の基礎知識

NHK きょうの健康 「特定健診の活用術 生活習慣病を防ぐ!」

YouTubeチャンネル「関谷剛の産業医こぼれ話」 2025年12月『健康診断とは』
医師・産業医の関谷剛先生が、この通信と同じテーマについて解説した動画を毎月公開しております。文章だけでは伝わりにくい、病気予防のポイントや産業医としての経験談などを自らの言葉で説明しています。YouTubeチャンネルで御覧頂けますから、事業所でもご家庭でもぜひ御覧下さい。

あとがき

健康診断の結果、昨年よりも数値が大きく変わるだけでなく、数年にわたって少しずつ数値が変化しているようであれば、それは何らかの病気の予兆とも考えられます。早期発見・早期治療のためにも、診断表を持って産業医に相談してみてください。(産業医 関谷剛)

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