自律神経失調症とは
統括産業医の関谷です。
地球規模の温暖化の影響か、3月に入ると冬の寒さから、温かい春の陽気に急に切り替わるように近年は変わってきたように思います。寒い日々から温暖な気候に変わると、人間は直ぐに対応出来るわけではなく、特に心の切り替えが追いつかない場合があります。春は低気圧と高気圧が頻繁に入れ替わる気圧変動が大きく、寒暖差に対応するための自律神経の一つである交感神経優位が続くと、エネルギー消費が増え、疲れやだるさを感じやすくなってしまうのです。
寒さがやわらいでも、日常生活においてなんとなく体調が優れない、あるいは気分が落ち込んでしまうという経験はありませんか。もしかしたら体調不良の原因が自律神経の乱れに由来する自律神経失調症を発症している可能性があります。
自律神経には、体を活動的にする交感神経とリラックスさせる副交感神経があり、2つがバランスをとりながら、心臓や腸、胃、血管などの臓器の働きを司っています。この自律神経は、自分の意思ではコントロールできず、ちょっとしたストレスでもバランスが乱れてしまいます。自律神経失調症のなかには、ストレスや不安などからくる軽症のうつ病、あるいは不安神経症や気分障害などの症状が一部含まれると考えられています。事業所でもこの病気の特徴を知ることで、職場環境を整えて病気を未然に防ぐと共に、適切な治療を行うことで早期の職場復帰が図れると思いますので、この病気について学んでみて下さい。
【1】自律神経失調症とは
自律神経失調症は、自律神経がストレスによって正常に機能しないことによって起こるさまざまな症状の総称です。神経は「中枢神経」(脳と脊髄)と体中に張り巡らされている「末梢神経」に分けられます。末梢神経は意思によって身体の各部を動かす「体性神経」と意思に関係なく刺激に反応して身体の機能を調整する「自律神経」に分けられます。暑いときに手で仰ぐのは体性神経、汗が出るのは自律神経の働きです。
この自律神経は、交感神経と副交感神経という逆の働きをする2つに分かれています。交感神経は身体を活発に動かすときに働き、副交感神経は身体を休めるときに働きます。これらが互いにバランスを取りながら身体の状態を調節していますが、このバランスが崩れることがあり、その原因として、不規則な生活によって自律神経が興奮し続けたり、ストレスによる刺激、更年期におけるホルモンの乱れ(更年期障害)、先天的要因などが挙げられます。
1:身体的症状
個人によって症状の現れ方は様々ですが、例えば自律神経失調症における典型的な身体的症状としては、下記に示したもの以外にも非常に多岐にわたることが知られており、同時に複数の症状が重なって自覚することもあり得ます。
・倦怠感
・息苦しさ
・眠れない
・慢性的な疲労感などの全身症状
・頭痛
・動悸や息切れ
・めまいや立ち眩み
・下痢や便秘
2:精神的症状
自律神経失調症における精神的症状としては、代表的には下記のような症状が挙げられます。
・情緒不安定
・いらいら
・不安感
・抑うつ傾向
その他にも、自律神経のアンバランスに伴って引き起こされやすい精神的症状としては、下記のような状態が考えられます。
・不眠
・記憶障害
・集中力低下
・感情の激しい起伏
また、これらの複数症状が一度に現れる、あるいはいったん改善したと思っても別の症状が再び出現することも想定されます。
自律神経失調症の多くは、「なんとなくだるい」「なんとなく気分がすぐれない」という「なんとなく」いつもと何かが違う感覚的な症状であったりして、具体的に身体のどの部分が悪いのか、苦痛の特定が出来ないケースが多い、やっかいな病気なのです。このような症状は不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼ばれ、自律神経失調症の代表的な特徴でもあります。
【2】自律神経失調症の原因
交感神経と副交感神経の乱れ、いわゆる自律神経の乱れはなぜ起きるのでしょうか。
自律神経失調症の主な原因を分類すると次のようになります。
・過度なストレス
・生活習慣の乱れ
・女性ホルモン
・神経質な性格
・出産、転勤などの環境の変化
・偏った食生活
それでは、主な原因について詳しく見ていきましょう。
■過度なストレス■
一般的なストレス以上の負荷が精神的に掛かっている状態では、自律神経失調症に罹患(りかん)しやすいと指摘されています。
(例)仕事業務のプレッシャーなどを始めとする精神的ストレス
日々の蓄積された過労
自分が置かれている環境下での光や音、温度などに関する身体的ストレス
職場でのパワハラ・セクハラなどを含むハラスメント
などによって自律神経のバランスが崩れます。また、周囲の人間関係に伴うストレスにより、交感神経と副交感神経のバランスを崩してしまうケースも想定されます。
■生活習慣の乱れ■
乱れた生活習慣とは、日常的な活動周期が一定でなく不安定であることを意味しています。慢性的な寝不足、あるいは不規則な生活や偏った食事などが生体リズムを狂わせてしまい、自律神経の乱れに繋がると考えられます。
(例)幼少期からの不規則な生活習慣で夜更かしを継続する
夜勤の頻度が多い職業である
ジャンクフードを多く摂取して偏りのある栄養素のみ取り入れる不適切な食生活
以上のような場合において、交感神経と副交感神経のバランスが破綻しやすいと指摘されています。
■女性ホルモン■
自律神経失調症は、一般的に男性よりも女性の方が罹患率を高く認めると認識されており、その背景として女性ホルモンの影響によって自律神経失調症を発症する恐れが懸念されています。
男性ホルモンと女性ホルモンは、ホルモンバランスの安定性という観点で相違点があります。男性ホルモンは思春期に分泌が高まって、それ以後は初老期まで安定する傾向があります。一方、女性ホルモンは思春期の初潮、毎月の周期的な月経習慣、妊娠・出産、更年期から閉経に至るまで一生のうちに変化を繰り返して複雑な系統を呈しています。したがって、女性ホルモンの特性から女性の方が男性よりもホルモンバランスが乱れやすく自律神経失調症を発症するリスクが高くなると想定されます。
さらに、女性は更年期に伴う自律神経失調症の発症が注目されています。女性ホルモンは、一般的に脳の視床下部から脳下垂体を通じて卵巣で分泌されることが知られています。視床下部には、女性ホルモンの分泌のほかに自律神経をコントロールする役割も有しています。
更年期には、女性ホルモンが激減してホルモンバランスの不調を来して視床下部に影響を及ぼすことによって自律神経が乱れることも疑われています。更年期障害では女性ホルモンの分泌がそれまでと比べて減少するため、自律神経の乱れに容易につながる結果、顔面のほてりや頭痛などの不調症状を自覚することも経験されます。
【3】自律神経失調症の予防法
自律神経にストレスがかかるとバランスが崩れがちです。自律神経失調症にならないようにするには、まずは規則正しい生活と、ストレスの解消や発散法を知ることが、自律神経のバランスを整えるために大切です。また昼間や平日は交感神経優位、夜間や休日は副交感神経が優位になるよう、1日単位、1週間単位でバランスを取ることも大事です。
■規則正しい生活■
1:食事をとる時間を安定させ、栄養バランスにも気をつける
(例)朝は起床後1時間、夜は21時より前にとる
昼を抜くとストレスが高まるので、食べ過ぎない程度に昼食もとる
2:質のいい睡眠をとる
(例)朝の起床時間を一定にする
夜は眠くなったら床につく
睡眠時間は人それぞれなので5時間以上9時間未満で自分にとっていい時間を決める
昼寝は、15時までに20分以内
部屋の電気は消して、静かな環境で眠る。寝る前にスマホは見ない
寝る前にアルコールは飲まない
午後眠らないようにするには、昼休み中の日光浴と軽いストレッチが有効
3:適度な運動と生活習慣
(例)入浴で疲労回復(ぬるめの湯、10~30分程度つかり、浴槽内で身体を伸ばす)
ラジオ体操、太極拳など、一定のリズムで身体を動かすリズム運動が効果的
腹式呼吸でリラックス
■自分に合ったストレス対処をみつける(ストレスマネジメント)■
• 感覚器官を使う……音楽を聴いたり、映画を見たりする
• 運動器官を使う……スポーツや身体運動
• 言葉を使う……誰かと会話する、気持ちを文章にする
• 気分転換を図る……散歩、買物、森林浴、ゲームなど
• 休息をとる……横になる、昼寝をする
• 相談する……人に悩みごとを聞いてもらう
不安や緊張が強いときに、自己暗示をかけるようにして身体をリラックスさせるリラクセーション(自律訓練法)、気持ちを発散させるために思い切り笑うこと・泣くことも効果的です。
【4】自律神経失調症で参考になるサイト
自律神経失調症チェックシートがあるサイト
女性のための健康応援サイト「自律神経失調症ガイド」では自律神経失調症についての症状や治療法について詳しく書かれています。その中でも自律神経失調症チェックシート機能が備えてあり、ご自身の自律神経症状と精神症状についての質問を回答すれば、4段階で状態を評価してくれるようにもなっています。
厚生労働省の「こころの耳」
厚生労働省が開設している、働く人へのメンタルヘルスポータルサイト「こころの耳」では様々な心の病について、御本人の他に、ご家族や事業者側からの対応方法が紹介されています。「こころの病 克服体験記」として自律神経失調症と診断された会社員の実体験が語られており、御本人の悩みや苦しみがリアルに感じられます。
あとがき
自律神経失調症の原因は、生活要因よりも「性格的な要因」が大きいと言われています。例えばコップの水が半分しかないと捉えるか、半分もあると思うのか。「しかない」より「もある」と考えた方が、楽になれます。ハードルを下げたり、見方を変えて、心の健康に努めましょう。産業医 関谷剛