双極性障害(躁うつ病)~その症状と職場での対応~

統括産業医の関谷です。
「最近、休職していた社員が復職し、見違えるほど精力的に働いている」「プロジェクトのリーダーが、連日徹夜同然で素晴らしい成果を上げている」といった光景に、社内で心当たりはありませんか? 実は、この「目覚ましい活躍」や「過剰なまでのエネルギー」の裏側に、重大なメンタルヘルスの課題が隠れていることがあります。それが、今回取り上げる「双極性障害(そううつ病)」です。
多くの企業では、メンタルヘルス対策として「うつ病」への理解は進んできました。しかし、うつ状態(落ち込み)と躁(そう)状態(過剰な高揚)を繰り返す双極性障害については、まだ正しく理解されているとは言えません。双極性障害の厄介な点は、調子が良い時の「躁状態」が、一見すると「非常にやる気のある優秀な社員」のように見えてしまうことです。
ポストコロナの新しい時代に、多様な働き方が浸透する中で、社員の「気分の波」をどう見守り、組織としてどう支えるべきかを考えます。単なる医学的知識に留まらず、現場での具体的な対応と支援のあり方について、最新のエビデンスに基づき解説していきます。
【1】うつ病との違い
職場でメンタルヘルス不調と聞くと、多くの方が「うつ病」を思い浮かべるかもしれません。しかし、今回取り上げる「双極性障害(そううつ病)」は、うつ病とは全く異なるメカニズムと対応が必要な疾患です。
いわゆる「うつ病(単極性うつ病)」は、気分の落ち込みという一方向の波です。一方、双極性障害は、気分が異常に高揚する「躁状態」と、激しく落ち込む「うつ状態」という対極の2つの状態を繰り返します。
②なぜ見分けるのが難しいのか
双極性障害の多くは「うつ状態」から始まります。そのため当初はうつ病と診断され、抗うつ薬の服用などの治療を受けても、症状が改善しないことがあります。
【2】双極性障害とは
双極性障害には、激しい躁状態を伴う「双極Ⅰ型」と、本人や周囲が気づきにくい程度の軽い躁状態(軽躁状態)を伴う「双極Ⅱ型」があります。
躁状態・軽躁状態
*睡眠時間の短縮: 2〜3時間の睡眠でも「絶好調だ」と言い、疲れを感じない
*多弁、観念奔逸(かんねんほんいつ): 喋り続け、アイデアが次々と飛び出すが、一貫性に欠ける
うつ状態
*強い自責感、死にたい気持ち、思考停止、過眠または不眠
■気分の波との違い■
誰にでもある「気分の浮き沈み」と病気としての「気分の波」を分ける境界線は、「日常生活や仕事に支障が出ているか」という点です。
| 項目 | 日常的な気分の波 | 双極性障害の波 |
| 原因 | 出来事(成功や失敗)への反応 | 出来事とは無関係で波が生じる |
| 持続性 | 数時間〜数日で収まる | 数週間〜数ヶ月単位で持続する |
| 社会的影響 | 自分でコントロール可能 | 人間関係や財産を損なうほど極端 |
職場では、軽躁状態のときは仕事の生産性が高まることがあります。一方、顕著な躁状態になると、自尊心も肥大して周囲と激しい口論になるなどトラブルが増え、かえって生産性が落ちます。また、この時期は乱費や性的逸脱行為も増えやすいです。さらに、躁状態のあとのうつ状態では自殺のリスクが高いため、専門家による治療を積極的に受けることが重要です。
【3】職場での対策と支援
双極性障害の支援で職場で最も留意すべき点は、「医学的治療の継続」をいかに支えるかです。この病気は、脳の生物学的な機能障害が原因であり、精神疾患の中でも特に再発率が高いことが医学的に示されています。
*薬物治療の重要性:双極性障害の治療の柱は、気分安定薬などを用いた薬物療法です。適切に服薬することで気分の波をコントロールでき、安定した就労を継続することが十分に可能です。
*「躁状態」における服薬中断のリスク:躁状態や軽躁状態にある時、本人は「万能感」や「気分の良さ」を感じているため、自分は治ったと思い込み、自己判断で服薬を中断してしまうことが少なくありません。 これが重篤な再発を招く最大の要因となります。
*産業医を介した連携:本人の様子に睡眠不足や過活動などの変化が見られたら、まずは産業医に相談します。そのうえで、産業医から主治医へ情報共有を行う「医療連携」のルートをあらかじめ確保しておくことが不可欠です。
■職場での受け入れ準備■
労務担当者が本人と面談し、復職や就業継続を支援する際は、以下①~③のポイントを整理しましょう。
双極性障害の方は、調子が良い(軽躁)時に過度な残業や高い目標設定をしてしまいがちです。これが後の「うつ状態」を招く引き金となります。
対策:「絶好調に見える時こそ、あえて業務量を抑える」という制限を設ける。
②勤務形態の安定化
睡眠不足は躁状態の最大の誘因です。
対策:交替制勤務や深夜残業を避け、規則正しい生活リズムを維持できる環境を整える。
③合理的配慮の合意
「どのようなサインが出たら会社が受診を勧めるか」を、あらかじめ本人・主治医・産業医と共有しておきます。この取り決めをクライシス・プランと呼びます。
■職場復帰後のフォローアップ■
双極性障害の復職支援では、うつ状態への逆戻り(再うつ)以上に、「元気になりすぎる兆候(軽躁状態)」への警戒が重要です。
①「ソフトランディング」とブレーキ役の徹底
本人が「もっと働ける」と主張しても、数ヶ月は残業制限を継続し、睡眠と生活リズムの死守を優先します。
②チームケアとクライシス・プランの運用
事前に決めた「再発時のサイン」が見られたら、本人の言葉を鵜呑みにせず、速やかに産業医受診を促してください。
【4】双極性障害で参考になるサイト
厚生労働省 「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」のe-ラーニング版
厚生労働省では、精神・発達障害についての正しい知識と理解を持ち、精神・発達障害のある方を温かく見守って支援する応援者(サポーター)になっていただけるよう「精神・発達障害者しごとサポーター 養成講座」を実施しています。本サイトでは、そのe-ラーニング版を展開しています。精神・発達障害のある方と共に働く上での基本的なポイントについて、様々な事例を交えた解説等を通じて学ぶことができます。
国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト「双極性障害(躁うつ病)
こころの情報サイトでは、こころの健康づくりに関する情報と医学的情報、医療・福祉・労働・年金等にわたる様々な社会的支援に関する情報、国の施策に関する情報を一般の皆様に向けて、総合的に、正確に、かつ分かりやすく提供しています。双極性障害についても詳しく解説しています。
厚生労働省 「働く人のメンタルヘルスサイト こころの耳」事例紹介
YouTubeチャンネル「関谷剛の産業医こぼれ話」 2026年2月『双極性障害』
医師・産業医の関谷剛先生が、この通信と同じテーマについて解説した動画を毎月公開しております。文章だけでは伝わりにくい、病気予防のポイントや産業医としての経験談などを自らの言葉で説明しています。YouTubeチャンネルで御覧頂けますから、事業所でもご家庭でもぜひ御覧下さい。
あとがき
双極性障害は、適切な治療と環境調整さえあれば、その高いエネルギーを仕事で活かせる方も多くいらっしゃいます。判断に迷うケースも多い疾患ですので、まずは産業医に相談してみてください。(産業医 関谷剛)



















