股関節の痛み〜加齢に伴う股関節の痛み〜
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統括産業医の関谷です。
寒くて乾燥するこの季節は、関節の痛みが出てくる時期でもあります。ヒトの体は、200本を超える骨によって構成されていますが、 関節の数はさらに多く、数え方でも異なりますが、約260か所以上あると言われています(個人差も有り)。
数多くある関節の中でも、40代を越してくると股関節に痛みを感じるようになることがあります。股関節は、足を動かす上で非常に重要な部分であり、独特の構造をしているため、特に二足歩行をする人間においては加齢とともに大きな負担がかかります。そのため、変形性股関節症を始めとする様々な疾患が生じやすく、40~50代女性に多く発症する傾向があります。
もし、股関節に痛みを感じた場合には、日常生活の見直しで、症状の改善や予防対策がとれますので、今痛みがなくても、今後痛みが出ないようにするためにも、この機会に股関節の痛みについて学んでみてください。
【1】どこが痛くていつ痛む?
股関節は、骨盤にある臼蓋(きゅうがい)と大腿骨頭で作られる関節であり、人体のなかで最も安定した関節と言われています。また、二つの骨が接する部分には関節軟骨が存在し、二つの骨を覆うように関節包と呼ばれる軟部組織で覆われています。
そのため、股関節に痛みを認める場合、その原因は骨の損傷と軟骨や軟部組織の損傷の2種類に分けることができます。もちろん、股関節以外の原因で股関節周囲が痛む場合もあります。
■初期症状は足腰の違和感■
太ももと足の付け根の部分が痛くなる、特に立ち上がった時や歩き始めるときに痛くなることは有りませんか? それは、股関節の病気の可能性が高いです。
動き出す瞬間は痛いが、動き出すと痛みを感じなくなるような症状も股関節に原因があるかもしれません。
■痛む部位は太腿または腰?■
股関節の病気では、痛みが現れる場所も必ずしも股関節そのものとは限りません。太もものつけ根あたり(そけい部)の痛みに加え、放散痛と呼ばれる、痛みが周囲に広がる症状も見られることがあります。
逆に、腰やひざの不調が原因で姿勢が崩れ、結果として股関節の病気を引き起こし、痛みが出るケースもあると考えられています。病院で診察して貰う際には、股関節の痛みが現れる場所とタイミングは病気の原因と関係してきますから、覚えておくと良いと思います。
【2】股関節が痛む主な病気
関節炎では加齢と共に膝関節の痛みを感じる人は多いですが、膝関節の次に股関節は荷重がかかっている部分であるので、痛みが生じやすい関節です。股関節の痛みで考えられる病気の代表は変形性股関節症です。その他に考えられる病気は複数あります。
■変形性股関節症■
患者さんの多くは女性です。以前は我が国では発育性股関節形成不全の後遺症や寛骨臼形成不全など小児期の発育障害の後遺症が主な原因とされ、変形性股関節症の80%程度を占めると言われてきました。最近の高齢化社会の進行とともに、明らかな股関節疾患の既往がなくても、年齢とともに股関節の軟骨が傷んで変形性股関節症を発症する方が増えてきています。
変形性股関節症の症状は、股関節の痛みと股関節機能の障害です。股関節症が進行すると、股関節の痛みが強くなり、歩行に障害を生じます。さらに進むと歩行する際だけでなく、持続痛(常に痛む)や夜間痛(夜寝ていても痛む)も出現してきます。
*リウマチ性股関節症
リウマチ性関節症とは、関節リウマチを背景とする疾患です。関節リウマチとは、自分の体が自分自身を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の一種です。関節を包む関節包の内側には、滑膜(かつまく)と呼ばれる関節液を生産する組織があります。この滑膜を体内の免疫に関わる細胞が攻撃してしまうことで関節内に炎症が起き、関節を形成する骨が壊されるのが関節リウマチであり、同じことが股関節に起きたときにリウマチ性股関節症と呼ばれます。
リウマチ性股関節症の背景には関節リウマチが存在しているため、股関節痛以外に関節リウマチによる症状が出ることがあります。代表的な関節リウマチの症状は、起床時の手指の強張りや手指関節の痛みなどです。
*大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)
更に年齢を重ねると発症することが多くなる症状に大腿骨頭壊死があり、股関節を形成する大腿骨頭に血流障害が起こり、骨壊死に至る疾患です。骨頭が壊死してしまうことが原因のため、症状の進行が急激に進むことが特徴として挙げられます。急速に股関節の痛みがひどくなる場合や動きが悪くなる場合は、この疾患を疑う必要があります。
*大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)
転倒などにより外力が股関節に加わることで生じる疾患です。多くの場合は、骨粗鬆症の背景がある高齢者が転倒し、尻もちをついたときに生じます。転倒後に歩けない、股関節が痛い、などの症状を認める場合に真っ先に考えるべき疾患です。
【3】日常的に行う予防対策
股関節まわりの痛みを感じたら、まず病院、整形外科に行って下さい。股関節のまわりをレントゲンで撮れば痛んでいる箇所が分かり、対策も立てやすいです。特に現在は、大きな病院でなくてもCT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像)検査などの画像検査が導入され、より精密に関節の症状が判別出来るようになっています。
整形外科で診断されても、手術までいかない軽傷のケースも多い病気です。年齢と共に筋肉が落ちていることで、関節への負担が大きくなっているため、オフィスで座りっぱなしの生活スタイルを改め、股関節まわりの筋肉を鍛えることが予防対策の基本となります。
■運動療法(ストレッチ)で痛みを改善■
痛みがあるとどうしても歩かなくなり筋肉が衰えてしまいますので、できれば水中歩行や水泳(平泳ぎを除く)を週2〜3回行っていただくと理想的です。運動療法はその他の方法もありますが、運動療法はどうしても疼痛を誘発してしまう可能性がありますので、慎重に始めて徐々に強度を高めていくことがポイントです。
運動療法は続けることが大切ですが、やり過ぎると関節がすり減ったりするため、過剰なまでの運動は必要ありません。また、痛みの原因によっては、運動療法を行うことで症状が悪化してしまうリスクがあります。まずは整形外科を受診して、痛みの原因を明らかにし、適切な治療法を選択するようにしましょう
*入浴で筋肉を温める
お湯につかることは、変形性股関節症に対する物理療法として効果があり、温泉療法で痛みが軽減するケースも報告されています。
自宅のお風呂で15分程度、ゆっくり湯船につかることで筋肉がほぐれ、血行を改善することも可能です。お湯の温度は38~40度のぬるめが理想的で、熱すぎるとのぼせてしまうため注意が必要です。また、腫れ・熱感・激しい痛みなどがある場合は逆効果のため、入浴は避けてください。
*温熱用品で冷えを防ぐ
股関節周りの筋肉を温めるには、電子レンジで温めるゲル状やビーズ状の温熱用パックや、湯たんぽなどさまざまな種類があり、自宅でも手軽に取り入れることができます。
太もものつけ根部分を中心に、温熱用品を15分程度当てて温めます。この方法は、寝起きの筋肉が硬直しやすい時間帯や、寒い日に外出した後、お風呂に入るまで時間があるときなどに行うと特に効果的です。
【4】股関節に負担をかけない日常生活の工夫
股関節に負担をかけないために、日常生活で使っている用具を見直すことも考えて見て下さい。
まず、布団の上げ下ろしや立ち上がりの際には股関節に負荷がかかりやすいため、床に布団を敷くよりも、ベッドを使用するほうが楽に過ごせます。
また、入浴時には、膝を折り曲げるような低いバスチェアを使うよりも、高さのある浴室用の椅子を使用することで、座ったり立ったりする動作が楽になり、股関節への負荷を和らげることができます。
【5】股関節の痛みで参考になるサイト
日本公益社団法人 日本整形外科学会 変形性股関節症
日本整形外科学会のホームページには、一般の方に向けて身体部位ごとに病状・病気の解説ページを公開しています。股関節の症状という項目で、股関節の病気と、骨盤を含む股関節周辺の病気を列記しています。この項目に変形性股関節症や大腿骨頸部骨折などの病気の解説ページに飛べるようになっています。病気の原因や予防対策まで、専門的な紹介がされています。
NHKきょうの健康 股関節「冷えにご注意」
NHKでは番組で健康に関して放映した内容について、サイトで紹介しています。股関節の冷えに関しては、予防対策について番組で使われた写真やイラストを使って、専門の医師が監修した内容を分かりやすく掲載しています。
公益社団法人 日本股関節研究振興財団「代表的な股関節疾患」
日本股関節研究振興財団のホームページには、研究者向けとは別に、一般向けに股関節の知識の普及と啓発のために、「股関節の知識」のページを公開しています。股関節の悩みQ&Aや患者会の紹介の他に、代表的な整形外科的股関節疾患を掲載しています。
厚生労働省 eJIM(イージム)「変形性股関節症」
厚生労働省eJIM(イージム:「統合医療」情報発信サイト)は、民間療法をはじめとする相補(補完)・代替療法と、どのように向き合い、利用したらよいのかどうかを考えるために、エビデンス(根拠)に基づいた情報を紹介しています。変形性股関節症については、海外の情報の中で掲載され、米国の医療制度に準じて補完療法の有効性についてわかっていることを列記しています。針治療やお灸、太極拳やヨガが補完療法として科学的観点からどれだけ研究成果があるかが紹介されています。
朝日新聞Reライフ.net「股関節に傷みが」
朝日新聞では日曜日朝刊に特集面「Reライフ(リライフ)」を掲載し、自身のリタイアや子どもの独立などで新たなステージへと踏み出す世代に向けて、様々なテーマの情報をサイトでも発信しており、健康情報は様々な症状を紹介しています。股関節の痛みに関しては、人生100年時代を生きるキーワードの一つとして、分かりやすいイラスト入りで専門医師の執筆記事が掲載されています。
関谷剛のTouTube動画「産業医講話」 2025年2月『股関節の痛み』
医師・産業医の関谷剛先生が、この通信と同じテーマで解説した動画を毎月公開しております。文章だけでは伝わりにくい、病気予防のポイントや産業医としての経験談などを自らの言葉で説明しています。YouTubeチャンネルで御覧頂けますから、事業所でもご家庭でもぜひ御覧下さい。
あとがき
継続した痛みがなくても「急に振り向いたときに股関節に鋭い痛みが出る」「最近股関節の動きが悪くなってきた」というのは初期症状です。早めに産業医に相談してみてください。(産業医 関谷剛)