サプリの選び方
統括産業医の関谷です。
今年3月22日に小林製薬が発売した「紅麹コレステヘルプ」など3種類5製品のサプリメントを自主回収すると発表しました。その後4日後には、このサプリ摂取との関連が疑われる死亡者が計5名に及ぶことが報道されました。小林製薬の製造した「紅麹」は、国内外の食品メーカーに原料として販売されていたことから、多くの商品が自主回収すると同時に使用を止めるように促し、テレビニュースでも4月上旬まで連日トップニュースで報道されました。
今回の件でサプリメントの安全性に疑問を持たれた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。サプリの見分け方や使い方について、改めて事業所でも従業員の健康維持や危機管理という観点から、今月はサプリの選び方に焦点をあてていきたいと思います。
【1】医薬品と健康食品の違い
百貨店やスーパーにオンラインショップでも健康食品やサプリメントの商品や広告を頻繁に目にしているのではないでしょうか。日本では政府が、医薬品については薬事法という法律で明確に定めていて、食品と医薬品(医薬部外品を含む)に分けられます。専門的な法律用語をそのまま掲載してもかなり難しいため、ここでは平易な言葉で説明し、医薬品と健康食品との違い、食品と健康食品の違いを解説します。
■医薬品の定義と範囲■
医薬品
医薬品とは、病気の「治療又は予防」を目的として使用する薬品のことで、医師・歯科医師の処方箋によって薬局で購入できる「医療用医薬品」と、薬局やドラッグストアで薬剤師等の薬の専門家の助言を得て直接購入できる「一般用医薬品(市販薬・OTC医薬品)」があります。
具体的にはがん治療薬やインフルエンザ治療薬は「医療用医薬品」、頭痛薬(ロキソニンS)や鼻炎薬(アレグラ)は「一般用医薬品(OTC医薬品)」に該当します。
医薬部外品
厚生労働省が認めた効果・効能に有効な成分が配合されており、予防や衛生を目的に作られている製品のことを言います。
例えば吐き気や不快感、口臭・体臭の防止、あせもの防止などに効果のある有効成分が配合されているので効果について訴求できます。医薬品と異なり医師の処方箋は必要無く、薬局やドラッグストア以外でも購入できる育毛剤や手指消毒製品、口腔清涼剤などを指します。
■健康食品とは■
まず、日本の食品衛生法や食品安全基本法での「食品」は、薬事法での医薬品及び医薬部外品を除く、すべての飲食物を指します。この「食品」の中に、いわゆる「健康食品」が含まれますが、法律上の定義は無く、医薬品以外で経口的に摂取される、健康の維持・増進に特別に役立つことをうたって販売されたり、そのような効果を期待して摂られている食品全般を指しているものです。
食品の中に、国の制度としては、国が定めた安全性や有効性に関する基準等を満たした保健機能食品制度があります。保健機能食品制度は、「おなかの調子を整えます」「脂肪の吸収をおだやかにします」など、特定の保健の目的が期待できる(健康の維持及び増進に役立つ)食品の場合にはその機能について、また国の定めた栄養成分については、一定の基準を満たす場合にその栄養成分の機能を表示することができる制度で、「機能性表示食品」「栄養機能食品」「特定保健用食品」があります(図1)。
(図1)
【2】サプリを選ぶ時には
テレビ、雑誌、新聞、インターネットなどで毎日目にする健康食品。市場にはさまざまな健康食品が流通していますが、健康食品が原因で体調を崩す事例なども出てきており、注意が必要です。あふれる情報にふりまわされず、国が保健機能食品制度で認めた各種健康食品の区分けについて正しく理解して、冷静に考えてみてください。
①錠剤・カプセル状の製品は過剰摂取になりがちです。味・香り・容積が備わった通常の食品形状の製品の方が、過剰摂取になりにくいです。
②広告のキャッチコピーや利用者の体験談だけでなく、自分自身で製品中に含まれている成分の安全性と有効性に関する情報を調べてみましょう。
③友人・知人から得た情報は、その情報源をたどって、販売業者の宣伝にすぎない内容ではないか、正確な情報かを確かめましょう。
④製品の品質等を確認するための、製品中の個別成分の含有量、製造者や問い合わせ先が明記してあることを確認しましょう。
⑤思わぬ健康被害を受けることがあるので、錠剤・カプセル状の製品を複数利用したり、医薬品的な効果を期待して利用しないようにしましょう。
⑥自己判断での医薬品との併用は避け、不調を感じたら必ず医師・薬剤師などの専門家に相談しましょう。
⑦高価な製品ほど効果があるとは限りません。同様の製品と比べてみましょう。
■根拠のない広告などの問題点■
健康食品の中には、「有名人が利用している」、「希有な成分が含まれている」、「病気が治った」、「特許取得」、「○○賞を受けた」など、魅力的なうたい文句が付いているものが多く存在しますが、これらの内容は、製品の安全性や有効性を保証するものではありません。
健康食品はあくまでも食品であり、医薬品ではないので、「病気が治った」という表現は、 特に注意が必要です。現時点で、病気の人を対象に治療効果を明確に実証した健康食品はありません。
なお、このような魅力的な効果をうたいながら、その効果などが実証されていない広告は、虚偽表示や誇大表示に該当し、「健康増進法」や「不当景品類及び不当表示防止法」で禁止されています。しかしながら、「個人の感想です。」、「効果を保証するものではありません。」といった効果の保証を打ち消す文言を併記すれば、規制を逃れられると誤解している事業者が、根拠なく広告を行っている場合があるため、注意が必要です。
【3】サプリ使用時の注意点
■薬のような使い方をしない■
錠剤・カプセル状の健康食品は、その形を見て薬のように思うかもしれませんが、健康食品と薬とは全く別のものです。健康食品を薬と同じように使用していると、病気の治癒が遅れたり、症状が悪化したりすることがあります。
■病気にかかっている人や既に薬を飲んでいる人■
健康食品を自己判断では使わない。使うときは必ず医師・薬剤師に伝える。健康食品と薬を併用することの安全性については、ほとんど解明されていないことから、医師や薬剤師に相談するほか、製造者、販売者などにも情報を確認するようにしましょう。
①アレルギー症状が発症する可能性がある
薬の場合なら、医師や薬剤師から事前に「今までに薬でアレルギーを起こしたことがあるかどうか」を聞かれ、体質に合った薬を処方してもらえます。また体質に合わない場合は薬を変更してもらうこともできます。しかし健康食品は自己判断で購入するものなので、アレルギー反応が出るかどうかも含め自分で判断しなければなりません。
②「天然成分」だから安全とは言えません
宣伝文句に「天然」「自然」のことばが入っているとイメージだけで「安全」を連想して安心していませんか。天然・自然由来成分を原料とする製品でもアレルギーの原因となり、因果関係が明確でない報告も含め、被害報告が多数あります(三七人参、ローヤルゼリー、コリアンダー、ウコン、エキナセア、コロハ、ザクロ、スピルリナ、ゼラチン、プロポリスなど)。
過去に何らかのアレルギー症状を経験した人は、特に注意が必要です。
■全ての人に安全な製品はない■
食品にゼロリスクを求めることは現実的には不可能です。特に病気の人、高齢者、妊産婦、乳児小児は摂取時期や摂取量には気を付けたいです。
今の時点で「○○に良い」といわれていても、未来の研究結果によって「良くない」ことが分かる場合もあります。同じ成分に対する評価の良し悪しは時間の経過と共に変わる可能性があることも、知っておいてください。
【4】普段の生活を健康的に
一般的な食品というものは、有史以前から何千年もの長い間、ヒトに食べ続けられてきた「食経験」があるので、その安全性にはある程度の信頼がおけます。しかし、健康食品のほとんどは決して食経験が長いものではありません。ビタミンやミネラルの重要性が脚光を浴び、欧米で錠剤・カプセル状の「栄養補助剤」が登場したのは 1980年前後のこと。
その後、ビタミンやミネラルに限らずさまざまな「機能性成分」が注目を浴び、健康食品素材として利用されるようになってきましたが、有効性も安全性もまだ分からないことがたくさんあります。新成分に多くの期待が寄せられ、研究の積み重ねによって新しい知見が蓄積されていく最先端科学の様子は、誰にとっても心躍るものです。しかし、健康の基本である「栄養・運動・休養」の3つの柱もまた、科学の賜物であることを忘れないでください。ここでいう「栄養」とは、決して、特定成分を濃縮して効率的に摂取することではありません。適量をバランスよく(多種類の食品をまんべんなく)食べるということです。
サプリを飲んで急激に何かが改善されるわけではありませんから、過度の依存は戒め、生活習慣病の原因は現在の生活習慣と捉え、生活習慣を改善していきましょう。生活のリズムに気を使いながら、健康的なライフスタイルを確立するように心がけてください。
【5】健康食品で役に立つサイト
健康食品の情報の場合、検索しやすい情報の大部分は、商品販売に関連した事業者から提供されているものです。それらの情報は、一般的に有効性が強調され、情報の出典が明確ではありません。
今回の「紅麹問題」で、行政でも健康食品に関しての選び方や健康被害情報にアクセスできる新たなサイトを設けたりしています。掲載している情報にはそれぞれ少しずつ違いがあります。公的機関や公益的、中立的な団体・組織が提供している情報は信頼できるものです。情報提供サイトとして、以下のようなところがありますから、目的に応じて参考にしてください。
厚生労働省 いわゆる「健康食品」のホームページ
食品の安全性確保に関する情報
内閣府食品安全委員会
食品安全関係情報
消費者庁
食品の表示に関する情報(特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品など)
国立医薬品食品衛生研究所 食品の安全性に関する情報
食品の安全性に関する国内外の情報
(独)医療基盤・健康・栄養研究所(旧国立健康・栄養研究所) 「健康食品」の安全性・有効性情報
健康食品に関する基礎的情報各成分に関する有効性や安全性の論文情報、有害情報など
(独)国民生活センター
健康食品に関する個別製品の検査結果など
東京都健康安全研究センター 「健康食品ナビ」
健康食品に関する情報
公益社団法人 日本医師会 「健康食品」・サプリメントについて
健康食品の有効性、安全性、医薬品との相互作用(飲み合わせ)の解説・症例も掲載
あとがき
健康食品の上手な選択方法としては、それを使うことによって、食生活・生活習慣が改善の方向へ動き出すような使い方です。用法や用量に間違いが無いか、サプリを飲む前には、産業医や掛かり付け医にぜひ相談してください。(産業医 関谷剛)