痛風〜食事と運動に、酒の量は減らす〜

統括産業医の関谷です。
医師仲間の間でも、激痛があることからこの病気にはならないようにしたほうが良い、と言われているのが痛風です。この病気は症状が発作的に起こることから「痛風発作」とも呼ばれ、発作が起こると2〜3日は歩けない程の痛みが続きます。ちょうど暑くなる6月から9月にかけて発症することがほとんどであるため、まだ発症経験がない方でも、これから夏に向けて注意が必要となります。
痛風は中年男性では誰にでも発症する可能性がある疾病ですが、発症の原因や対処の方法については、まだまだ知られていませんから、痛風発作が起きないようにこの機会にしっかりと学んでみてください。
<1>痛風とは?
厚生労働省が毎年行っている国民生活基礎調査の令和4年(2022)の調査によると、現在、痛風の治療で通院している患者総数は約130万6千人(男性123万6千人、女性7万人)となっています。痛風は男性の発症が圧倒的に多く、若い人よりも30代以降から50代に発症することが多く、肥満気味の中年男性が気を付けるべき代表的な病気です。
■原因は遺伝的要素と生活習慣■
痛風の直接の原因は、血液中の老廃物のひとつである「尿酸(にょうさん)」です。尿酸が一定量以上に増えると、その結晶が関節部分に蓄積し、やがて炎症と激しい痛みを引き起こします。尿酸値が7mg/dl以上を「高尿酸血症(こうにょうさんけっしょう)」といい、激痛などの発作が加わった場合を痛風(痛風発作)と呼んでいます。痛みが起こる場所は、足の親指の付け根が最も多く、全体の約7割を占めています。そのほか、足首、くるぶし、ひざ、耳などにもみられます。
高尿酸血症は、生活習慣、とくに食生活が大きく関わっています。尿酸は「プリン体」が分解されてつくられます。プリン体とは、細胞の新陳代謝やエネルギー代謝によってつくられる物質ですが、食品からもプリン体をとっています。プリン体は高カロリー食、レバーやエビなどの動物性食品、アルコール飲料などに多く含まれているので、これらの食品のとりすぎはプリン体のとりすぎにつながるとともに、アルコールは体内でのプリン体の合成を促し、尿酸の排出を抑制することがわかっています。
最近の遺伝子研究から、痛風の発症にかかわる遺伝子が複数発見されていて、遺伝子による代謝異常がある人は、痛風や高尿酸血症になりやすいこともわかってきました。遺伝子異常は自分ではわかりませんが、親や兄弟など家族に痛風の人がいる場合には、体質や食生活が似ている可能性があるので、若いころから注意したほうがいいでしょう。
<2>食事内容とお酒の量
高尿酸血症の患者数は、痛風患者の約10倍と推定されているため、高尿酸血症の患者数は約1,300万人と推測されます。痛風患者数の推移をみると、年々増加しており、この30年間で5倍にもなっています。
痛風の患者が増えた大きな原因として考えられるのは、食生活を含む生活習慣の変化です。「尿酸値を上げないライフスタイルに取り組む」ことが大切です。
■食事の量と内容■
尿酸値を上げないためには、食事で気をつけて行きたいポイントがあります。
まず、体内で尿酸に変わるプリン体が多く含まれている食品のとり過ぎに、注意することです。一般社団法人日本痛風・核酸代謝学会が編集している「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版」では、プリン体の1日の摂取量の目安として、1日あたり400mgまでに制限することが示されています。
そして食事内容に気を付けると同時に、プリン体の少ない食品であっても沢山食べ過ぎてしまうと、1日の摂取量を超えてしまいますから、食事全体の分量が過剰にならないように気を配りましょう。
■お酒の種類と量■
お酒の種類によってプリン体が多く含まれているものと、そうでもないものがあることが知られてきたと思います。プリン体の少ないお酒として、焼酎、ウイスキー、ブランデーなどが上げられます。逆にプリン体を多く含むのがビールです。 ビールは、大麦を原料としているため、その麦芽の中の核酸が分解してできたプリン体が多く含まれます。
2014年頃から「プリン体ゼロ」のビールや発泡酒を日本のビール会社は発売をはじめ、テレビCMでも宣伝され、痛風発作が怖くてビールを控えていた男性は大いに喜んだと聞きます。ビール以外にプリン体の多い酒類として日本酒、紹興酒、ワインなどがあります。
飲酒について、注意してもらい点があります。プリン体が含まれていなかったとしても、アルコールは飲むことで腎臓に作用して尿酸を体外に排出することを抑えてしまうため、尿酸値が高まってしまいます。つまり尿酸値を上げないためのライフスタイルを考えた場合、お酒の種類に関係なく、アルコール類の摂取は行わないことです。どうしてもビールを飲む感覚をガマンできないのであれば、プリン体ゼロのノンアルコールビールに切り替えてみるのはいかがでしょう。
<3>お勧めの運動
痛風発作は耐えがたい痛みを伴いますが、痛風の恐いところはそれだけではありません。尿酸値が高い状態を放置していると、さまざまな合併症を引き起こすのです。
高尿酸血症は糖尿病や脂質異常症、高血圧を合併しやすいことでも知られ、いわゆるメタボリックシンドロームと呼ばれる病態、つまり生活習慣病の前段階なり、生活習慣病そのものになります。これらの生活習慣病は動脈硬化の最大の危険因子でもあり、複数をあわせもつことによって狭心症や心筋梗塞などの心疾患、脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患を引き起こすことがあります。
■定期的な運動■
痛風や高尿酸血症にならないようにするために、ライフスタイルの中に定期的な運動を取り入れることです。それも、おすすめの運動は、ウォーキングなどの有酸素運動、避けた方がいいのは、筋トレなどの無酸素運動です。
有酸素運動とは、筋肉への負担が比較的軽く、酸素と一緒に体内の糖分や体脂肪が消費される運動のことで、ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどが代表的です。1回にかける時間は30〜60分間程度、またできれば週に3回程度は行うとよいでしょう。
無酸素運動(強度の強い運動)をすると、尿酸の生成が促されるばかりか、乳酸という尿酸の排せつを妨げる物質が作られるので、尿酸値が上がってしまいます。筋トレをする場合は、尿酸値が上がらないように、こまめに休憩し、水分補給することが重要です。長距離を走ったり、長時間のスポーツなどの激しい運動は脱水症状になって尿酸を増やすことにもなりますから、痛風にかかっている人は控えるようにしてください。
■オフィスでの軽いストレッチ■
働いていると、スポーツ施設へ行って、運動を行うようなまとまった時間がとれない方もいるでしょう。その際は、事業所でも、少しずつでも身体を動かす習慣や工夫を持ってもらうことが大切です。例えば、エレベーターは使わずに階段を使ってみる、出勤時や退勤時は1駅分は歩いてみる、などできる範囲で、普段より歩く距離をのばしてみましょう。
事業所内でもデスク周りのチョットしたスペースでストレッチや、壁があれば壁を両手で押したりするなど、1時間に1回は椅子から立ち上がって、歩いたり、腕を回したり、屈伸でも良いので身体を動かすようにして、座りっぱなしにならないようにしましょう。
<4>痛風で参考になるサイト
地方独立行政法人東京都立病院機構HP 高尿酸血症・痛風の食事
東京都立病院機構は、14の都立病院を一つのメディカルグループとして運営するために、令和4年(2022)に東京都が設置する地方独立行政法人として設立されました。ホームページでは14の都立病院の紹介と共に、グループ全体で診療以外のリハビリや検査についての情報を部門ごとに分けて発信しており、栄養部門で「高尿酸血症・痛風の食事」というテーマで、食事療法でのポイントやお役立ちレシピを掲載しています。
公益財団法人痛風・尿酸財団 食品・飲料中のプリン体
公益財団法人痛風・尿酸財団は、痛風と尿酸、およびそれに関連する疾患などの研究助成を主目的として、昭和59年(1984)8月財団法人痛風研究会として発足し、その後平成21年(2009)12月に公益財団法人に移行認定された研究助成財団です。痛風に関して、一般向けにもHPで詳しく情報を掲載しており、その中でも食品とアルコール飲料中のプリン体の量について分かり易くまとめられていますので、酒類のプリン体含有量が気になる方はぜひ参考にしてください。
全国健康保険協会(協会けんぽ) ある日突然、激痛におそわれます
全国健康保険協会では、ホームページで働く人の健康をサポートするために、健康を促す情報を公開しています。生活習慣病と予防というテーマで、痛風に関しては記載があり、突然発症する痛風発作の原因や対策について詳しく紹介しています。
NHKきょうの健康 痛風と高尿酸血症「食事と最新薬物療法」
NHKの番組で健康に関して放映した過去の放送内容について、サイトで紹介しています。痛風に関しては、高尿酸血症を含めて「きょうの健康」のなかで、様々な切り口で番組が作られています。その中でも食事に含まれるプリン体について取り上げた番組をリンクしておきます。放送で使われたグラフやイラストはカラーで大変分かり易く作られていますから、ぜひ参考にしてください。
YouTubeチャンネル「関谷剛の産業医こぼれ話」 2025年5月『痛風』
医師・産業医の関谷剛先生が、この通信と同じテーマについて解説した動画を毎月公開しております。文章だけでは伝わりにくい、病気予防のポイントや産業医としての経験談などを自らの言葉で説明しています。YouTubeチャンネルで御覧頂けますから、事業所でもご家庭でもぜひ御覧下さい。
あとがき
通常の健康診断では尿酸値は検査項目には入っていないため、もし尿酸値を調べるのであれば人間ドックか内科を受診して検査項目を指定すればご自身の尿酸値が分かります。突然の痛風発作に苦しむ前に、ぽっこりお腹になった男性は、まずは産業医に相談してみてください。(産業医 関谷剛)