夏バテ予防〜食事と生活習慣を見直そう〜

統括産業医の関谷です。
最高気温が35℃を越える、暑い夏が今年もやってきました。職場の熱中症対策が6月から政府によって義務化されたことで、新聞やテレビニュースでも、最高気温の予測に基づいて熱中症への警戒を呼びかけるようになってきました。
熱中症対策と合わせて、夏場の高温多湿環境で気を付けていただきたいのは「夏バテ」です。夏バテを防げれば、熱中症を防ぐことに繋がります。夏バテは日常生活の過ごし方に注意を払うことが、対策の第一歩となりますから、この機会に夏バテを予防するライフスタイルを学んでみてください。
【1】夏バテとは?
冷房の効いた室内と暑い屋外では、大きな温度差があるため、自律神経の調節機能が乱れやすくなります。自律神経が乱れると、体内のさまざまな機能がうまく働かなくなるため、体がだるい、疲れがとれないなど、夏バテの症状が出てきます。夏バテによる体力低下や体調不良は、熱中症や食中毒などの感染症のリスクも高めるため、しっかり対処しましょう。
夏バテの症状は熱中症の初期症状とも重なり、夏バテの症状が出ている状態が続いていると、猛暑の時期になると熱中症にもなりやすく、日常生活の過ごし方で夏バテにならないような予防策を講じるようにしましょう。
■夏バテと熱中症の違い■
熱中症とは、高温多湿な環境下で急激な体温上昇による急性の症状で、重症化すると命に関わる可能性があります。一方、夏バテは、長期間にわたる高温多湿環境による体調不良で、慢性的な症状です。夏バながら気あたりや暑さ負けとも呼ばれますが、病名ではなく、高温多湿や温度差に起因する全身の疲労感や倦怠感、食欲不振、めまい・立ちくらみ、頭痛、集中力の低下、眠れないなど様々な体の不調の総称です。
【2】夏バテ予防の食事
夏バテにならないようにするには、体力を付けることがポイントです。体力があれば夏バテにはなりません。体力を付けるための基本は「食事」「運動」「睡眠」の3つの生活要素をしっかりと確保することです。
■夏場に摂りたい栄養素■
夏バテの一因は、食欲が落ちることです。食欲を増進させるメニューを選び、十分な栄養補給をすることが重要です。食欲増進のために、しょうがや大葉などの香味野菜の活用はおすすめです。カレーなど香辛料を利かせた料理も、食欲を増進してくれるので夏バテ予防に効果的です。
体力を付けるためには、肉や大豆などの良質なタンパク質をしっかりと食べることが求められます。さらに、多量の汗をかいたときは、水溶性のミネラル(ナトリウム、カリウムなど)や、水溶性のビタミン(B1、B2、B6、B12、Cなど)が汗とともに排泄されます。暑い夏に多量の汗をかくときは、水分・塩分等の摂取と当時に、夏バテを予防するために水溶性ミネラル、ビタミン類の摂取(補給)に留意して下さい。
食材も高騰しているご時世ですが、今が旬のゴーヤ・トマト・ピーマン・キュウリなどの夏野菜はビタミンCも豊富で、夏場にはお手頃な価格で購入出来ますから、夏バテ予防として積極的に料理に使ってみてください。
■温かい物も食べる■
暑さのために冷たい飲み物や食べ物、アッサリと食べられる食事を選びがちです。しかし、冷たい物ばかり口にしてしまうと、内臓が冷えることで基礎代謝や免疫力も低下し、さまざまな不調を引き起こす可能性があり、体力ダウンにつながります。
夏こそ、温かい食事をとり、温かい飲み物も飲むようにして、内臓を冷やさないようにしながら胃腸を守りましょう。野菜もサラダで食べるよりも温めると、より多く摂取できるようになりますし、スープなどで豚肉や豆類と一緒に食べれば、水分と塩分補給を兼ねた栄養摂取ができます。
【3】生活習慣上のポイント
夏バテを防ぐための体力をつけるには睡眠と運動も重要な要素です。都会暮らしでは、家庭から職場まで電車通勤で、ほぼ朝から夕方まで座ったままエアコンの効いた室内で過ごしている方が多いでしょう。夏場だと外出して運動するのは控えないといけませんから、屋内でもできるようなストレッチやウォーキングをしたり、エレベーターを使わずに階段を上り下りして、軽く汗を出すような運動を行うようにしましょう。運動と休息および睡眠を決まった時間に行うようにすることで、夏バテ予防に繋がります。
■規則正しい生活リズム■
夏バテ予防には毎日規則正しい生活をして、疲れを残さないために、質のよい睡眠も重要です。冷房の設定温度は、環境省が推奨する28℃を目安に適温にしてください。1日の体温変化は、夕方以降から夜にかけて高くなり、下がり始めるときに眠気が出てきます。
明け方からは体温が上がってくるのですが、冷房で体が冷えていると体温が上がりにくいため、体が動くスイッチが入らず、起床時のだるさの原因につながります。
就寝する60分〜90分前にぬるめのお湯に入浴したり、寝る30分前からエアコンで室温で下げておくなど、質のよい睡眠がとれるように、入眠前の体温調整や室温調整を行い、ぐっすりと眠れるような生活リズムを作るようにしてください。
■冷却グッズの使用■
熱帯夜の時などは、エアコンや扇風機、除湿機等で室温の調整だけでなく、湿度を下げたり風が通るようにする等心地よい睡眠が朝まで続くような室内の環境設定を行いましょう。
近年では、ひんやりした体感をもたらす冷却シートや冷感シーツ・アイスマットなどが発売されておりますので、眠りに入りにくい人は、入眠しやすくなるような冷却グッズも使ってみてはいかがでしょう。睡眠中に汗をかいて目覚めることがあるような人は、通気性や吸湿性のある素材を使った夏用のパジャマを着用することで、睡眠中の発汗による不快感で目覚めることを防げるかもしれません。
【4】夏バテで参考になるサイト
全国健康保険協会 季節の健康情報「夏バテしない生活習慣を!」
全国健康保険協会(協会けんぽ)は、中小企業を中心に全国約260万事業所にお勤めの方とそのご家族、約4,000万人の方が加入する日本最大の医療保険者です。「加入者の皆様の健康増進を図るとともに、良質かつ効率的な医療が享受できるようにする」との基本理念にサイトで「健康サポート」コーナーを設置し、事業所に勤める人達に役立つ季節の健康情報を毎月発信しています。
農林水産省 webマガジン『aff(あふ)』「旬の食材で夏バテ防止レシピ」
農林水産省が編集・発行し、消費者、農林水産業関係者を結ぶWebマガジンとして毎月農林水産省のサイトで発行している「aff(あふ)」があります。暮らしに役立つ情報を満載し、農山漁村の魅力、食卓や消費の現状などをカラー写真を交えて紹介し、分かりやい内容となっています。農水省のサイトで見ることも、毎号PDFファイルでダウンロードも出来ます。
東京都水道局 行政が設置している飲料水のみ場
公共性の高い場所に設置されている水飲栓及びイベントの際に水道局が設置する移動型水飲栓をTokyowater Drinking Station (以下、DSという。)として展開しています。DSは都内約900箇所あります。まちなかでの水分補給にご活用ください。
NHKきょうの健康「夏に気をつけたい病気~食中毒や熱中症、夏バテなど」
YouTubeチャンネル「関谷剛の産業医こぼれ話」 2025年7月『夏バテ予防』
医師・産業医の関谷剛先生が、この通信と同じテーマについて解説した動画を毎月公開しております。文章だけでは伝わりにくい、病気予防のポイントや産業医としての経験談などを自らの言葉で説明しています。YouTubeチャンネルで御覧頂けますから、事業所でもご家庭でもぜひ御覧下さい。
あとがき
夏野菜にはカリウムと水分が多いため、汗で塩分と一緒に失われるカリウム補給に役立ちます。豚肉やウナギなどに含まれるビタミンB1、梅干やレモン、お酢などに含まれるクエン酸などを補うと疲労回復に役立ちます。夏バテ予防に繋がる食事は、栄養士や産業医に相談してみてください。(産業医 関谷剛)